シートガスケットは「厚い」ほうが安心?その誤解が漏れを招く理由|厚み選定の鉄則とメカニズム【保存版】
「配管のフランジ面が少し荒れているから、厚めの3.0mmのジョイントシートを使っておこう」
「昔からなんとなく3.0mmのシートを切って使っているけど、本当にこれでいいのか?」
「蒸気ラインで漏れが止まらない。シートを厚くすれば止まるだろうか?」
現場で最も身近なシール材である「シートガスケット」。 ジョイントシートやフッ素樹脂シートなど、ハサミやカッターで加工できる利便性から多用されていますが、その「厚さ(Thickness)」については「なんとなく」で決めてしまってはいないでしょうか?
実は、シートガスケットにおいて「厚いほうが丈夫で安心」という考えは、大きな誤解です。むしろ、シートガスケットだからこそ、厚すぎる選定が致命的な漏れトラブルを引き起こしているケースが少なくありません。
この記事では、なぜシートガスケットにおいて「薄い」ことが推奨されるのか、逆に「厚い」必要がある場面はどこか、その選定基準を徹底的に解説します。

第1部:厚み選定の黄金ルール — シートガスケットは「薄く」が鉄則
結論から申し上げます。シートガスケットの厚み選定における大原則は、「フランジが許す限り、薄いものを選ぶ」ことです 。
具体的には、1.5mmが第一推奨となります。
なぜ、シートガスケットは薄いほうが良いのでしょうか? それにはシート材特有の3つの理由があります。
理由1:シール面圧が高まり、止まりやすくなる
同じ力でボルトを締めた場合、ガスケットが薄いほうが、締付力が逃げずにダイレクトにシール面に伝わります 。
メカニズム: 厚いシートはクッション性が高すぎるため、締付力がガスケット自体の変形(潰れ)に費やされてしまいます。一方、薄いシートは反発が鋭く、高い面圧(シールするための圧力)を確保しやすいため、内部流体を強力に封止できます。
理由2:「応力緩和(ヘタリ)」を抑える
シートガスケット(特にジョイントシートやフッ素樹脂)は、金属ガスケットに比べて軟らかいため、時間経過とともに「ヘタリ(応力緩和)」が起きやすい素材です 。
メカニズム: 厚いシートは、変形するゴムや樹脂のボリュームが多いため、時間経過とともに大きくクリープ変形し、反発力が低下します。これが「ボルトの緩み」に直結します。
メリット: 薄いシートは変形する体積自体が少ないため、応力緩和が小さく、初期の締付力を長期間維持できます 。
理由3:シート特有の「浸透漏れ」を防ぐ
ジョイントシートのような繊維質のシートガスケット特有の問題として、流体がガスケットの断面(側面)を通ってジワジワと滲み出してくる「浸透漏れ」があります。
メリット: 厚さが半分になれば、漏れの通り道(断面積)も半分になります。物理的に浸透漏れのリスクを大幅に減らすことができます。特にガス(気体)シールにおいては、この差が決定的になります 。
第2部:それでも「厚いシート(3.0mm)」が必要な理由
では、なぜ世の中には3.0mmのような厚いシートガスケットが存在するのでしょうか?それは、シートガスケット最大の武器である「馴染みの良さ」を活かして、「悪いフランジ状態」に対処するためです 。
理由1:荒れたフランジの「歪み・凹凸」を吸収する
薄いシートは性能が良い反面、フランジ面の凹凸に対する「追従性」は低くなります。
メリット: 3.0mmなどの厚いシートガスケットは圧縮代(潰れしろ)が大きいため、古い配管でフランジ面が腐食して荒れていたり、傷があったり、配管の平行度が出ておらず少し斜めになっていたりする場合でも、その隙間をグッと埋めることができます 。
理由2:大口径フランジの剛性不足を補う
配管径が大きくなると(200A以上など)、ボルトピッチが広がり、締付時にフランジ自体がたわみやすくなります。
メリット: 厚いシートガスケットの柔軟性が、このたわみを吸収し、シール面全体に均一に当たるのを助けます 。
第3部:【決定版】流体・口径別・厚さ選定ガイド
ニチアスの推奨基準 に基づき、失敗しない厚さ選定の基準をまとめました。迷った時はこの表に従ってください。
1. 水・油系ライン(一般配管)
- 150A(6インチ)以下: 厚さ 1.5mm
フランジの剛性が高く、歪みも少ないため、性能の良い1.5mmを推奨します 。
- 200A(8インチ)以上: 厚さ 3.0mm
フランジがたわみやすいため、歪み吸収性の良い3.0mmを推奨します 。
2. ガス系ライン(気体)
- 全サイズ: 厚さ 1.5mm以下
気体は液体よりも漏れやすいため、高い面圧が必要で、かつシート断面からの「浸透漏れ」を防ぐ必要があります。ガスシールにおいて「厚物シート」はリスクが高いため、薄物を推奨します 。
3. 蒸気・熱水ライン(高温)
- 全サイズ: 厚さ 1.5mm
最も注意が必要です。高温下ではシート材の熱硬化や応力緩和が加速します。また、熱硬化による「割れ」も厚いほど起きやすくなります。スチームラインでは、どんなにフランジが古くても、可能な限り1.5mmのシート(または渦巻ガスケット)を使用すべきです 。
第4部:選定の実践例 — 「なんとなく3mm」からの脱却
ケーススタディA:蒸気配管のメンテナンス
現状: 蒸気配管(100A)から蒸気漏れが発生。現在は3.0mmのジョイントシートを使用中。
診断: 3.0mmを使用しているため、熱による応力緩和で締付力が低下している可能性大。また、厚みがある分、熱硬化で脆くなっている恐れも。
対策: 1.5mmに変更。シートガスケットで対応するなら薄くするのが鉄則。
ケーススタディB:古い水配管の補修
現状: 30年前の水配管(50A)。フランジ面が腐食でガタガタしている。
診断: 本来なら50Aは1.5mmだが、フランジ面の凹凸が激しいため、1.5mmでは隙間が埋まらない(面圧がかからない)恐れがある。
対策: 例外的に3.0mmを選択(またはゴムシート)。シール性能よりも、シート材の「馴染み(食い込み)」を優先する判断。
最終章:答えはここにある。「選定のご依頼はダイコーへ」
シートガスケットの厚さは、単なる寸法ではなく、プラントの安全を守るための設計思想そのものです。
「基本は薄く、状況に応じて厚く」。この原則を知っているだけで、漏れトラブルの多くは未然に防げます。
「うちの設備のフランジ状態だと、1.5mmで大丈夫だろうか?」
「大口径だけどガスラインだから1.5mmを使いたい。シート加工できるか?」
「図面には3mmとあるが、用途的に1.5mmを提案したい」
このような、現場ごとの細かな判断。それに対して、豊富な知識と加工実績で応えることこそ、工業用製品の加工メーカーである株式会社ダイコーの真価です。
専門家による最適な「選定・加工」
「選定のご依頼はダイコーへ」とお任せください。
ダイコーでは、お客様の使用条件(流体、温度、圧力、フランジサイズ)をヒアリングし、ニチアス等のメーカー基準に基づいた最適な厚さ(1.0mm, 1.5mm, 2.0mm, 3.0mm)を選定します。
そして、その厚さのシート材から、カッティングプロッターやトムソン加工を駆使して、即座に製品を切り出します。
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