TOMBO™ No. 1400-NA ニチアス|600℃耐熱・剛直性で施工を極める!ガラス繊維系織布ガスケット徹底解説
「ボイラーのマンホールガスケット、400℃対応のガラスクロスでは少し不安だが、800℃対応のAES繊維はオーバースペックでコストもかかる」「大口径の排ガスダクトフランジ、ガスケットが柔らかすぎて垂直に取り付けるのが大変だ」「フランジ面間が狭くて、柔軟なガスケットだと挿入時に折れ曲がってしまう」…。
高温設備、特にボイラー、乾燥炉、排ガスダクトなどのマンホールや点検口、接続部のシールにおいては、「耐熱性」はもちろんのこと、「施工性(ハンドリング性)」が作業効率や安全確保の観点から極めて重要になる場面があります。特に大口径のガスケットを垂直に取り付ける際や、狭いフランジ間に挿入する際、柔らかすぎるガスケットは形状を保てず、取り付けに多大な労力を要することがあります。
このような、「600℃クラスの中高温域での耐熱性」と「抜群の形状保持性による施工のしやすさ」という、現場の具体的なニーズに応えるために設計されたのが、ニチアス株式会社が提供する高性能織布ガスケット「TOMBO™ No. 1400-NA(スーパーマンホール™ガスケット-NA)」です。
この記事では、No. 1400-NAがなぜ600℃クラスの高温用織布ガスケットの中でも、特にその「剛直性(コシの強さ)」によって選ばれるのか、その構造と性能の核心から、正しい選定・使い方、そして絶対に理解しておくべき限界と注意点まで、徹底的に解説します。
第1部:TOMBO™ No. 1400-NAとは?その構造と性能の核心
No. 1400-NAは、高温部のシールに用いられる「織布ガスケット」ファミリーに属し、特にその際立った剛直性(形状保持性)に最大の特徴を持つ製品です。その構造は、600℃という耐熱性と、優れたハンドリング性を両立させるための独自の工夫が凝らされています。
性能の核心①:600℃耐熱とコストバランスを実現する「ガラス繊維 + 横糸SUS線補強クロス」
No. 1400-NAの基盤となるのは、特殊な構成を持つ耐熱クロスです。
- 基材繊維(縦糸):ガラス繊維(グラスファイバー)
縦糸には、400℃までの耐熱性を持つ標準的なガラス繊維が使用されています 。これにより、製品全体のコストを抑えつつ、基本的な耐熱性と柔軟性を確保しています。
- 補強材(横糸):ステンレス鋼線(SUS線)
No. 1400-NAの構造上の最大の特徴は、横糸にのみステンレス鋼線が織り込まれている点です 。この横方向への金属補強が、ガスケットに強い「コシ」を与え、後述する優れたハンドリング性の源泉となります。同時に、ステンレス鋼線の耐熱性(一般的に600℃以上)が、ガスケット全体の最高使用温度を600℃まで引き上げる役割も担っています。
この「ガラス繊維とステンレス鋼線のハイブリッド織り」構造が、400℃を超える温度域での使用を可能にしつつ、No. 1400-NA独自のキャラクターを生み出しているのです。
性能の核心②:シール性と加工性を付与する「ゴム引き・積層加工」
ガラス繊維とSUS線で織られたクロスは、それだけではまだシール材として完成していません。ニチアス(およびダイコーのような加工メーカー)では、以下の加工を施すことで、最終的なガスケット製品へと仕上げます。
- ゴム引き加工: 織布にゴムコンパウンドを塗布・含浸させます。これにより、繊維間の隙間が埋められシール性(気密性)が向上します 。同時に、繊維が固められることで裁断時のほつれが防止され、打ち抜きや縫製といった加工性が向上します 。
- 積層加工: ゴム引きされたクロスを複数枚重ね合わせ、圧着することで、要求されるガスケット厚み(例:3.2mm、4.8mm、6.4mmなど)に仕上げます。
この「ガラス繊維とSUS線のハイブリッドクロス + ゴムによるシール性・加工性付与」という組み合わせが、No. 1400-NAの信頼性の基盤を形成しています。
No. 1400-NAが現場で選ばれる理由 — 際立つ「コシの強さ」と「施工性」
ニチアスの織布ガスケットラインナップの中で、No. 1400-NAは非常にユニークなポジショニングを占めています。その最大の理由は、600℃という耐熱性と、圧倒的な「コシの強さ」の両立にあります。
- 600℃までの中高温域をカバーする耐熱性能: 最高使用温度600℃は、標準的なガラスクロスガスケット(例:TOMBO™ No. 1374、400℃)では対応できない温度域です 。800℃対応のAES繊維ベースのNo. 1420シリーズまでは必要ないものの、400℃では不安が残る、といった中間的な温度域(400℃~600℃)において、No. 1400-NAはコストパフォーマンスに優れた選択肢となります。
- 際立った「コシの強さ(剛直性)」と優れたハンドリング性: No. 1400-NAの最大の特徴は、その圧倒的な「コシの強さ」です。ニチアスの資料によると、同サイズの試験片のたわみ量はわずか1mm 。これは、自重でほとんどたわまない、非常に剛直であることを示しています。
比較すると、同じ600℃耐熱のNo. 1420-TH(AES繊維ベース)は47mm、400℃耐熱のNo. 1374(ガラス繊維)は18mmたわむのに対し、No. 1400-NAの「たわみ1mm」は際立っています 。
この強いコシは、施工時のハンドリング性(取り扱いやすさ)において絶大なメリットをもたらします。
- 大口径・垂直施工: 大口径のマンホールガスケットなどを垂直に取り付ける際、柔らかいガスケットだと自重で垂れ下がったり、形状が崩れたりして取り付けに手間取ることがあります。しかし、剛直なNo. 1400-NAなら、形状を保ったままスムーズに装着できます 。
- 狭い箇所への挿入: フランジ面間が狭く、ガスケットを滑り込ませるように挿入しなければならない場合でも、No. 1400-NAなら折れ曲がったり座屈したりしにくいため、作業が容易になります 。
ニチアスの資料でも、「コシが強い製品(1400-NA, 1420-S)は大口径でもたわみが生じにくいため、ガスケットを立てて施工する場合や面間が開かないフランジに装入する場合などのハンドリングに優れて」おり、「特にハンドリングを重視する場合などに選定ください」と、No. 1400-NAが施工性を最優先する場合の有力な選択肢であることが明記されています 。

第3部:【最重要】性能を最大限に引き出すための正しい理解と使い方
No. 1400-NAは施工性に優れたガスケットですが、その特性を誤解して使用すると、期待した性能が得られないばかりか、思わぬトラブルを招く可能性もあります。特に以下の点は、選定・使用前に必ず理解しておく必要があります。
1. シール性能の限界 —「多少の漏れは許容」が大前提
織布ガスケットを選定・使用する上で、絶対に忘れてはならないのが、そのシール性能の限界です。ニチアスのカタログには、織布ガスケット全般に対する注意書きとして「ガスケットの特性上タイトなシール用途には適しません。多少の漏れが許容できる箇所にご使用ください。」と、極めて重要な警告が記載されています 。
- なぜ漏れやすいのか? 織布構造であるため、ゴム引き加工を施しても、繊維の織り目には微細な隙間が残ります。また、高温下ではゴムバインダーが徐々に熱分解していくため、気密性はさらに低下します。
- 適した用途の再確認: この特性から、No. 1400-NAは、高圧ガスや真空、あるいは有害・可燃性ガスのように、わずかな漏れも許されない箇所には絶対に使用できません。主な用途は、ボイラーのマンホールや点検口、オートクレーブの蓋、熱風・排ガスダクトの接続部など、シール箇所が開放空間に面しており、かつ内部の圧力が比較的低い(または大気圧に近い)箇所に限られます 。
2. 柔軟性の限界 — フランジ追従性は低い
No. 1400-NAの最大の長所である「コシの強さ(剛直性)」は、裏を返せば「柔軟性の低さ」を意味します。たわみ量が1mmであることからもわかるように、No. 1400-NAは他の多くの織布ガスケット(1374, 1420-ST, 1420-TH)に比べて硬く、曲がりにくい性質を持っています 。
これは、フランジ面の歪み、うねり、傷といった不整面への追従性においては、不利になる可能性があることを意味します。シール面がある程度平坦であることが、No. 1400-NAの性能を引き出すための前提条件となります。もし、フランジ面の状態が悪く、ガスケットの柔軟性による追従性がより重要視される場合は、同じ600℃耐熱であればNo. 1420-TH(たわみ量47mm)、あるいは400℃までであればNo. 1374(たわみ量18mm)を選定する方が適切な場合があります 。
3. 初期加熱時の発煙に注意
No. 1400-NAには、ゴムコンパウンドなどの有機バインダーが含まれています(有機分量15%以下 )。これは、他のニチアス製織布ガスケット(1374: 25%以下, 1420-ST/S/TH: 20-25%以下 )と比較して最も少ない値ですが、それでも初めて高温に晒される際(初期加熱時)には、有機分が分解・気化し、煙が発生します 。これは製品の異常ではありませんが、室内や閉鎖空間で使用する場合は、十分な換気を行う必要があります。
4. 金属線によるケガに注意
No. 1400-NAの横糸にはステンレス鋼線が織り込まれています 。ガスケットを切断した端面などから、金属線が飛び出して手指などに刺さり、ケガをする可能性があります。取り扱い時には、必ず厚手の保護手袋を着用するなど、十分な注意が必要です 。
5. 焼き付き防止には専門家への相談を
標準のNo. 1400-NAには、フランジ面への焼き付きを防止する黒鉛処理は施されていません。高温部での使用においては、ガスケットがフランジに固着し、交換時の剥離作業が困難になる可能性があります。もし焼き付きが懸念される場合は、標準で黒鉛処理品がラインナップされている「TOMBO™ No. 1374-G」や「TOMBO™ No. 1420-THG」の採用を検討するか、あるいは専門家であるダイコーに相談し、No. 1400-NAへの特殊な表面処理が可能かどうかを確認することが推奨されます。
最終章:答えはここにある。「複雑な選定・加工はダイコーへ」
ニチアスのTOMBO™ No. 1400-NAは、600℃までの中高温域において、際立った「コシの強さ」による優れたハンドリング性と、ガラス繊維ベースのコストパフォーマンスを両立させた、ユニークで実用的な高温用織布ガスケットです。特に、大口径ガスケットの施工性や、狭い箇所への挿入性を最優先したい現場にとって、強力な選択肢となります。
しかし、その選定と加工は、時に専門的な判断を要します。
「600℃対応で施工しやすいガスケットが欲しいが、フランジ面の状態があまり良くない。1400-NAの剛直さでシールできるか不安だ」
「ダクトの形状が特殊で、標準的な額縁形状ではシールできない。1400-NAの剛性を活かしたカスタム形状で製作してほしい」
「1400-NAのハンドリング性は魅力だが、焼き付きも防止したい。黒鉛処理などの特殊加工は可能か?」
このような、カタログのスペック表だけでは決して答えの出ない、現場固有の課題。それに対して、50年以上の経験に裏打ちされた専門知識(ノウハウ)と、それを形にする加工技術(ソリューション)の両輪で応えることこそ、工業用製品の加工メーカーである株式会社ダイコーの真価です。
専門家による最適なソリューション提案
ダイコーでは、お客様の使用温度、圧力(低圧であること)、フランジ面の状態、そして施工方法やハンドリング性に関する要求までを専門の技術スタッフが詳細にヒアリング 。No. 1400-NAの剛直性が最適か、あるいは柔軟性を重視して他の織布ガスケット(1374, 1420シリーズ)を選ぶべきか、はたまたシール性の観点から全く別のガスケット(ジョイントシート、うず巻形など)が適しているかを的確に判断し、豊富な知見からお客様の設備に最適な仕様をご提案します。焼き付き防止のための表面処理についても、最適な方法を検討・提案いたします。
自社ブランド 一貫生産体制によるオーダーメイド対応力
ダイコーは、耐熱クロスのゴム引き加工から積層、そして最終加工までを一貫して行うことができる、数少ない専門メーカーです。この強みを活かし、お客様のあらゆるご要望に迅速かつ柔軟に対応します。ウォータージェット加工機やプロッター、プレス機を駆使し、単純なリング形状から、ボルト穴付きの複雑な額縁形状、楕円や角形のマンホールガスケットまで、図面一枚で1個からオーダーメイド製作 。緊急のトラブル時にも、その機動力を最大限に発揮します。
材質の選定に迷ったとき、特殊な加工が必要なとき、あるいはどこに頼めば良いか分からない課題に直面したとき。その答えは、常にここにあります。複雑な選定・加工はダイコーへ — どうぞ、お気軽にご相談ください。