性能の核心①：600℃耐熱と安全性を両立する「AES繊維 + SUS線補強クロス」

No. 1420-THの基盤となるのは、特殊な耐熱繊維を織り上げた「クロス（織布）」です。その構成は以下の通りです。

• 基材繊維：AES繊維（Alkaline Earth Silicate Fiber）
  これは、人体への影響が懸念される特定化学物質RCF（リフラクトリーセラミックファイバー）の代替として開発された、生体溶解性を持つ安全な人造無機繊維です。万が一、作業中に繊維を吸入してしまっても、体液によって速やかに溶解・排出されるため、健康リスクを大幅に低減します。このAES繊維が、No. 1420-THに優れた耐熱性（最高使用温度600℃）をもたらします 。
• 補強材：ステンレス鋼線（SUS線）
  No. 1420-THの「TH」が示す通り、この製品は縦糸・横糸の両方にステンレス鋼線が織り込まれています 。これにより、AES繊維だけでは得られない高い機械的強度と、ガスケットとしての形状保持性を付与しています。高温下での伸びや、締付時の圧縮に対する耐久性を高める重要な役割を担います。

性能の核心②：シール性と加工性を付与する「ゴム引き・積層加工」

AES繊維とSUS線で織られたクロスは、それだけではまだシール材として完成していません。ニチアス（およびダイコーのような加工メーカー）では、以下の加工を施すことで、最終的なガスケット製品へと仕上げます。

• ゴム引き加工: 織布にゴムコンパウンドを塗布・含浸させる工程です 。これにより、繊維間の隙間が埋められ、シール性（気密性）が向上します。同時に、繊維が固められることで裁断時のほつれが防止され、打ち抜きや縫製といった加工性が格段に向上します。No. 1420-THの色調が「黄白色（一部緑色）」 となっているのは、このゴム引き加工によるものです。
• 積層加工: ゴム引きされたクロスを複数枚重ね合わせ、圧着することで、要求されるガスケット厚み（例：3.0mm、4.8mm、6.4mmなど）に仕上げます 。

この「安全な耐熱繊維 + 金属補強 + ゴムによるシール性・加工性付与」という組み合わせこそが、No. 1420-THの信頼性の根幹を成しているのです。

No. 1420-THが現場で選ばれる理由 — そのユニークな利点

No. 1420-THは、高温用織布ガスケットの中でも、特にバランスの取れた特性を持つ製品として、多くの現場で採用されています。

• 600℃までの確かな耐熱性能: 最高使用温度600℃ は、一般的なガラスクロスガスケット（例：TOMBO™ No. 1374、400℃）では対応できない、ボイラーの燃焼口周りやディーゼルエンジンの排気管といった、より高温になる箇所での使用を可能にします 。
• RCFフリーの高い安全性: 基材に生体溶解性のAES繊維を使用しているため、特定化学物質であるRCFを含みません。これにより、作業者の安全衛生管理に関する懸念を払拭し、安心して使用することができます。
• 優れた柔軟性とフランジ追従性: 織布をベースにしているため、硬いシートガスケットに比べて非常に柔軟です。ニチアスの資料によると、同サイズの試験片のたわみ量は47mmと、他の高温用織布ガスケット（1400-NA: 1mm、1420-S: 0mm）と比較して際立って大きい値を示しています 。この優れた柔軟性により、高温設備にありがちなフランジ面の歪み、うねり、傷といった不整面にもしっかりと追従し、シール漏れのリスクを低減します。特に、高い締付力をかけられない箇所において、この特性は大きなアドバンテージとなります 。
• 比較的良好なハンドリング性: No. 1420-THは、同じAES繊維を使用した製品の中でも、縦横両方にステンレス鋼線が入っているため、片側のみ補強の「1420-ST」（たわみ量42mm） よりは若干コシがあります。これにより、ガスケットを垂直に立てて施工する場合や、フランジ面間が狭い箇所へ挿入する際の取り扱い（ハンドリング）が、より容易になります。

1. シール性能の限界 —「多少の漏れは許容」が大前提

織布ガスケットを選定・使用する上で、絶対に忘れてはならないのが、そのシール性能の限界です。ニチアスのカタログには「ガスケットの特性上タイトなシール用途には適しません。多少の漏れが許容できる箇所にご使用ください。」と、極めて重要な注意書きがあります 。

• なぜ漏れやすいのか？ 織布構造であるため、ゴム引き加工を施しても、繊維の織り目には微細な隙間が残ります。また、高温下ではゴムバインダーが徐々に熱分解していくため、気密性はさらに低下します。
• 適した用途の再確認: この特性から、No. 1420-THは、高圧ガスや真空、あるいは有害・可燃性ガスのように、わずかな漏れも許されない箇所には絶対に使用できません。主な用途は、ボイラーのマンホールや点検口、熱風・排ガスダクトの接続部など、シール箇所が開放空間に面しており、かつ内部の圧力が比較的低い（または大気圧に近い）箇所に限られます。

2. 初期加熱時の発煙に注意

No. 1420-THには、ゴムコンパウンドなどの有機バインダーが含まれています（有機分量20%以下） 。そのため、初めて高温に晒される際（初期加熱時）に、これらの有機分が分解・気化し、煙が発生します 。これは製品の異常ではありませんが、室内や閉鎖空間で使用する場合は、十分な換気を行う必要があります。発煙を避けたい場合は、事前にガスケットを加熱処理（空焼き）して有機分を飛ばしておく、といった対策も有効です。

3. 金属線によるケガに注意

No. 1420-THにはステンレス鋼線が織り込まれています。ガスケットを切断した端面などから、金属線が飛び出して手指などに刺さり、ケガをする可能性があります 。取り扱い時には、必ず厚手の保護手袋を着用するなど、十分な注意が必要です。

4. 焼き付き防止には「黒鉛処理品」を

高温部で使用されるガスケットは、フランジ面に焼き付いて固着し、交換時の剥離作業に多大な労力と時間を要することがあります。この問題を解決するため、ニチアスではNo. 1420-THの表面に黒鉛処理を施した「TOMBO™ No. 1420-THG」もラインナップしています 。黒鉛の潤滑性により、フランジへの焼き付きを大幅に低減し、メンテナンス作業を格段に容易にします。定期的な点検・交換が必要な箇所には、この黒鉛処理品の採用を強く推奨します。

専門家による最適なソリューション提案

ダイコーでは、お客様の使用温度、圧力（低圧であること）、フランジ面の状態、そしてメンテナンスの頻度までを専門の技術スタッフが詳細にヒアリング。No. 1420-THが最適か、あるいは黒鉛処理品のTHGが必要か、はたまたガラスクロス（D5400）や他のAES繊維製品（D5800）がより適しているかを的確に判断し、豊富な知見からお客様の設備に最適な仕様をご提案します。