ニチアス TOMBO™ No. 1374|400℃耐熱・柔軟性のスタンダード「ガラス織布ガスケット」徹底解説
「ボイラーのマンホールパッキン、もっとコストを抑えたい」「排ガスダクトのフランジに合う、柔軟なガスケットが必要だ」「400℃程度の熱風ラインで、手軽に使えるシール材はないか?」…。
高温設備におけるシール材の選定は、常に性能とコストのバランスが求められます。特に、ボイラーの点検口(マンホール、ハンドホール)や、排ガス・熱風ダクトの接続部など、高い締付力をかけられず、かつ完全な気密性が要求されない箇所では、オーバースペックな高機能ガスケットは必ずしも最適解とは言えません。
このような、中高温域(~400℃)における「標準的な耐熱シール」のニーズに応えるべく、長年にわたり産業界で広く使用されてきたのが、ニチアス株式会社が提供する「TOMBO™ No. 1374(マンホールガスケット)」です。
この記事では、ニチアス株式会社の公式製品資料に基づき、ガラス繊維を基材としたこのスタンダードな織布ガスケット No. 1374が、なぜ多くの現場で定番として選ばれ続けるのか、その構造と性能、得意な用途、そして絶対に理解しておくべき限界と注意点まで、徹底的に解説します。
第1部:TOMBO™ No. 1374とは?その構造と性能の核心
No. 1374は、高温部のシールに用いられる「織布ガスケット」ファミリーの中で、最も基本的な製品と位置づけられます。その構造は、耐熱性と柔軟性、そして加工性をバランス良く実現するために、シンプルながらも工夫が凝らされています。
性能の核心①:400℃耐熱の基盤「ガラス繊維クロス」
No. 1374の基材となっているのは、ガラス繊維(グラスファイバー)を縦横に織り上げた「ガラスクロス」です 。ガラス繊維は、
- 優れた耐熱性: 最高使用温度400℃という、中高温域のシール材として十分な耐熱性を持ちます 。
- 良好な柔軟性: 繊維素材であるため、硬いシートガスケットに比べてしなやかで、曲面や多少の凹凸にも追従しやすい特性を持ちます。ニチアスの資料によると、No. 1374のたわみ量は18mmであり、柔軟性に富むことが示されています 。
- コストパフォーマンス: AES繊維(No. 1420シリーズの基材)などの高性能繊維と比較して、一般的に安価であり、製品全体のコストを抑えることに貢献します。
性能の核心②:シール性と加工性を付与する「ゴム引き・積層加工」
ガラス繊維クロスは、そのままではシール材として機能しません。ニチアス(およびダイコーのような加工メーカー)では、以下の加工を施すことで、最終的なガスケット製品へと仕上げます。
- ゴム引き加工: ガラスクロスにゴムコンパウンドを塗布・含浸させます 。これにより、繊維間の隙間が埋められシール性(気密性)が向上するとともに、繊維が固められて裁断時のほつれが防止され、打ち抜きや縫製といった加工性が向上します 。No. 1374の色調が「クリーム色」なのは、このゴム引き加工によるものです 。
- 積層加工: ゴム引きされたクロスを複数枚重ね合わせ、圧着することで、要求されるガスケット厚み(例:3.2mm、4.8mm、6.4mmなど)に仕上げます。
この「ガラス繊維の耐熱性・柔軟性」と「ゴムによるシール性・加工性付与」の組み合わせが、No. 1374を中高温域におけるスタンダードなシール材たらしめているのです。
No. 1374が現場で選ばれる理由 — その実用的な利点
No. 1374は、最新の高性能ガスケットと比較すると突出したスペックを持つわけではありません。しかし、長年にわたり多くの現場で使われ続けているのには、確かな理由があります。
- 400℃までの確かな耐熱性能: 最高使用温度400℃は、多くのボイラー、乾燥炉、排ガスダクト、ディーゼルエンジンの排気管といった設備の運転温度をカバーします 。特殊な高温域を除けば、この耐熱性で十分なケースが数多く存在します。
- 優れた柔軟性とフランジ追従性: 前述の通り、織布ベースであるため柔軟性に優れています 。特に、鋳物で作られた古い設備のマンホールフランジや、熱歪みが生じやすい大型のダクトフランジなど、シール面が完全に平坦でない場合でも、ガスケットが柔軟に変形して隙間を埋め、漏れを防ぐ効果が期待できます。
- コストパフォーマンス: より高性能なAES繊維を使用したNo. 1420シリーズと比較して、一般的に安価です。性能要件が400℃以下で満たされる場合、No. 1374はコスト効率の良い選択肢となります。
- 良好な加工性: ゴム引き加工により、切断や打ち抜きが容易です 。これにより、現場での急なサイズ調整や、複雑な形状への加工が比較的容易に行えます。

第3部:【最重要】性能を最大限に引き出すための正しい理解と使い方
No. 1374は非常に有用なガスケットですが、その特性を誤解して使用すると、期待した性能が得られないばかりか、思わぬトラブルを招く可能性もあります。特に以下の点は、選定・使用前に必ず理解しておく必要があります。
1. シール性能の限界 —「多少の漏れは許容」が大前提
織布ガスケットを選定・使用する上で、絶対に忘れてはならないのが、そのシール性能の限界です。ニチアスのカタログには、織布ガスケット全般に対する注意書きとして「ガスケットの特性上タイトなシール用途には適しません。多少の漏れが許容できる箇所にご使用ください。」と、極めて重要な警告が記載されています 。
- なぜ漏れやすいのか? 織布構造であるため、ゴム引き加工を施しても、繊維の織り目には微細な隙間が残ります。また、高温下(特に200℃以上)ではゴムバインダーが徐々に熱分解していくため、気密性はさらに低下します。
- 適した用途の再確認: この特性から、No. 1374は、高圧ガスや真空、あるいは有害・可燃性ガスのように、わずかな漏れも許されない箇所には絶対に使用できません。主な用途は、ボイラーのマンホールや点検口、オートクレーブの蓋、熱風・排ガスダクトの接続部など、シール箇所が開放空間に面しており、かつ内部の圧力が比較的低い(または大気圧に近い)箇所に限られます 。
2. 初期加熱時の発煙に注意
No. 1374には、ゴムコンパウンドなどの有機バインダーが含まれています(有機分量25%以下 )。そのため、初めて高温に晒される際(初期加熱時)に、これらの有機分が分解・気化し、煙が発生します 。これは製品の異常ではありませんが、室内や閉鎖空間で使用する場合は、十分な換気を行う必要があります 。発煙を避けたい場合は、事前にガスケットを加熱処理(空焼き)して有機分を飛ばしておく、といった対策も有効です。
3. 金属線は含まないが、取り扱いは丁寧に
No. 1374のクロス構造は、縦糸・横糸ともにガラス繊維のみで構成されており、No. 1420シリーズのようなステンレス鋼線は含まれていません 。そのため、金属線によるケガのリスクはありませんが、ガラス繊維自体も皮膚への刺激となる可能性があるため、取り扱い時には保護手袋の着用が推奨されます。また、ゴム引きされているとはいえ、無理な力を加えると破損する可能性があるため、丁寧な取り扱いが必要です。
4. 焼き付き防止には「黒鉛処理品(1374-G)」を
高温部で使用されるガスケット、特にマンホールガスケットは、フランジ面に焼き付いて固着し、交換時の剥離作業に多大な労力と時間を要することがあります。この問題を解決するため、ニチアスではNo. 1374の表面に黒鉛処理を施した「TOMBO™ No. 1374-G」もラインナップしています 。黒鉛の潤滑性により、フランジへの焼き付きを大幅に低減し、メンテナンス作業を格段に容易にします 。定期的な点検・交換が必要な箇所には、この黒鉛処理品の採用を強く推奨します。
最終章:答えはここにある。「複雑な選定・加工はダイコーへ」
ニチアスのTOMBO™ No. 1374は、400℃までの中高温域において、コストと性能のバランスに優れた、信頼性の高い標準的な織布ガスケットです。その柔軟性は、歪みのあるフランジや低い締付力しか得られない箇所で特に有効です。
しかし、その選定と加工は、時に専門的な判断を要します。
「使用温度が400℃を超える可能性があるが、コストは抑えたい。何か良い代替品はないか?」
「ダクトの形状が非常に複雑で、標準的な額縁形状ではシールできない。図面からカスタム形状で製作してほしい」
「焼き付き防止のため黒鉛処理品を使いたいが、自社で加工する設備がない」
このような、カタログのスペック表だけでは決して答えの出ない、現場固有の課題。それに対して、50年以上の経験に裏打ちされた専門知識(ノウハウ)と、それを形にする加工技術(ソリューション)の両輪で応えることこそ、工業用製品の加工メーカーである株式会社ダイコーの真価です。
専門家による最適なソリューション提案
ダイコーでは、お客様の使用温度、圧力(低圧であること)、フランジ面の状態、そしてメンテナンスの頻度までを専門の技術スタッフが詳細にヒアリング。No. 1374が最適か、黒鉛処理品の1374-Gが必要か、あるいはより高温対応のNo. 1420シリーズ(AES繊維)や、特殊な耐薬品性を持つNo. 9094(PTFE)が適しているかを的確に判断し、豊富な知見からお客様の設備に最適な仕様をご提案します。
自社ブランド 一貫生産体制によるオーダーメイド対応力
ダイコーは、耐熱クロスのゴム引き加工から積層、そして最終加工までを一貫して行うことができる、数少ない専門メーカーです。この強みを活かし、お客様のあらゆるご要望に迅速かつ柔軟に対応します。ウォータージェット加工機やプロッター、プレス機を駆使し、単純なリング形状から、ボルト穴付きの複雑な額縁形状、楕円や角形のマンホールガスケットまで、図面一枚で1個からオーダーメイド製作。緊急のトラブル時にも、その機動力を最大限に発揮します。
材質の選定に迷ったとき、特殊な加工が必要なとき、あるいはどこに頼めば良いか分からない課題に直面したとき。その答えは、常にここにあります。複雑な選定・加工はダイコーへ — どうぞ、お気軽にご相談ください。