バルカーNo.7010-EXガスケット選定ガイド|耐クリープ改良型PTFEの実力 株式会社ダイコー
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バルカーNo.7010-EXガスケット選定ガイド|耐クリープ改良型純PTFEの実力
「製品へのコンタミネーション(汚染)は絶対に避けたいが、純粋なPTFEガスケットは変形(クリープ)しやすく、長期的な信頼性に欠ける」「締付管理が難しく、頻繁な増し締めが必要になる」…これは、究極のクリーン性と安定したシール性能の両立を目指す現場が直面する、長年のジレンマでした。この課題に応えるため、PTFEの分子構造そのものに改良を加えて開発されたのが、株式会社バルカーの「バルカー No.7010-EX」(ニューバルフロンガスケット)です。
この記事では、No.7010-EXがなぜ「耐クリープ性を改良した」と謳えるのか、その構造的な秘密から、性能を裏付ける具体的なデータ、そして安全に使用するための正しい知識まで、専門的な視点から徹底的に解説します。
第1部:No.7010-EXとは?― 純粋PTFEの弱点を分子レベルで克服
No.7010-EXは、カタログにおいて「ニューバルフロンガスケット」として紹介されています。その性能の核心は、見た目や主成分は純粋なPTFEでありながら、その分子構造に特殊な改良を加えた「ニューバルフロン」を素材としている点にあります。
性能の核心:特殊変性PTFE「ニューバルフロン」の採用
一般的な純粋PTFEシートガスケット(バルカーNo.7010)は、その優れた耐薬品性と非汚染性から多くのクリーンなラインで使用されてきました。しかし、分子間の結合が比較的弱いため、圧力や熱が加わると分子が滑り、変形してしまう「クリープ(応力緩和)」が最大の弱点でした。
No.7010-EXは、このPTFEの分子構造を部分的に変化させた特殊変性PTFE(ニューバルフロン)を原料としています。これにより、PTFE本来の優れた特性はそのままに、分子の滑りを抑制し、クリープ特性を大幅に改善しているのです。
カタログに記載されている主成分は「PTFE」ですが、これは「充填材を含まない」という意味であり、その実態は標準的なPTFEとは一線を画す、高機能な素材です。
No.7010-EXが実現する4つの卓越した性能
- 大幅に改善された耐クリープ性と長期安定性
カタログには「耐クリープ性を改良した『ニューバルフロン』を材料としたガスケットです」と明記されており、これがNo.7010-EXの最大の存在価値です。その効果は「応力緩和率」のデータに明確に表れています。(100℃、22時間後、厚さ3.0mm)
製品名 |
主成分 |
応力緩和率 |
No.7010 |
標準PTFE |
79.6 % |
No.7010-EX |
特殊変性PTFE |
63.7 % |
このデータは、No.7010-EXが標準的な純PTFE(No.7010)と比較して、100℃の条件下で応力緩和(=締付力の低下)が約20%も抑制されていることを示しています。これは、充填材入りであるNo.7020(55.0%)には及ばないものの、純粋なPTFEとしては驚異的な改善であり、長期的なシールの信頼性向上に大きく貢献します。
- 究極のクリーン性と非汚染性
No.7010-EXは、シリカやカーボンといった充填材(フィラー)を一切含んでいません。そのため、ガスケットからの溶出物や摩耗粉が流体を汚染するリスクが極めて低く、製品の品質に最も敏感な医薬品、食品、半導体製造プロセスなどのウルトラクリーンなラインで、その真価を発揮します。
- ほぼ万能な耐薬品性・非粘着性
100%PTFEであるため、PTFE本来の優れた特性を完全に保持しています。溶融アルカリ金属などを除く、ほとんど全ての化学薬品に対して侵されることのない優れた耐薬品性。そして、フランジへの固着がほとんどない優れた非粘着性を持ち、メンテナンス時の交換作業を容易にします。
- 食品衛生法への適合
カタログには「食」のマークが付記されており、食品衛生法の「容器・包装、器具の規格基準」に適合していることが示されています。これにより、食品に直接・間接的に接触する可能性のあるラインでも、安心して使用することができます。

第2部:No.7010-EXの性能を最大限に引き出すための正しい使い方
No.7010-EXは、純粋PTFEの新たな可能性を拓く高性能ガスケットですが、その性能を100%引き出すためには、材質の特性を深く理解し、適切な管理を行うことが不可欠です。
【最重要】締付管理の考え方:定期的な「増し締め」の重要性
No.7010-EXは耐クリープ性が「改良」されてはいますが、「ゼロ」ではありません。PTFEの基本的な性質として、時間と共に変形(クリープ)する特性は依然として残っています。そのため、カタログでは以下の極めて重要な指針を示しています。
「定期的な増締めを実施するなど、締付管理ができる箇所に使用してください。」
これは、No.7010-EXが「メンテナンスフリー」の製品ではなく、定期的な増し締めを前提とすることで、その高いシール性能を長期的に維持するという思想で設計されていることを意味します。増し締めが困難な高所や狭隘部のフランジには、よりクリープの少ない充填材入りタイプ(No.7020など)を選定すべきです。
増し締めの大きなメリット:高温時でも有効
一方で、PTFE系ガスケットにはゴム系ジョイントシートにはない大きな利点があります。カタログには「増締めは高温時、常温時にかかわらず、低下した締付力の回復に効果があります」と記載されています。
ゴム系ジョイントシートは熱で硬化してしまうため、高温時の増し締めは割れを引き起こすだけであり厳禁です。しかし、No.7010-EXは熱で硬化しないため、運転中に締付力の低下が確認された場合でも、増し締めによってシール性能を回復させることが可能です。
ただし、カタログは同時に「高温下ではガスケットの剛性が低下するため、ガスケットの過剰変形や破壊に注意が必要」とも警告しています。高温時の増し締めは慎重に行う必要があります。
設計・選定時に注意すべき事項
- 使用できない流体: カタログには「重合性モノマーなど」が不適な流体として挙げられています。これらの流体には、専用のガスケットを選定する必要があります。
- ガスケット座の表面仕上げ: 最高のシール性能を得るため、フランジのガスケット座の推奨表面粗さは、以下の通りです。
- 液体シールの用途: 6.3Ra
- ガスシールの用途: 3.2Ra
第3部:特殊形状・複雑な選定はダイコーにご相談ください
バルカー No.7010-EXは、「究極のクリーン性」と「改良された安定性」を両立させた、非常にユニークで価値の高い製品です。しかし、その選定と運用は、PTFEの深い理解を必要とします。
「No.7010-EXの'改良された耐クリープ性'は、うちの150℃のラインで十分だろうか?それとも充填材入りのNo.7020を選ぶべきか?」
「定期的な増し締めは、どの程度の頻度とトルクで行うのが最適か?」
「医薬品製造装置の特殊な形状のポート用に、No.7010-EXで精密なガスケットを製作したい」
このような、カタログの標準情報だけでは判断に迷う専門的なケースや、シート材からの精密な加工が必要となる場面では、ぜひ私たちガスケットのプロフェッショナル、ダイコーにご相談ください。
なぜ、複雑な選定・加工はダイコーに任せるべきなのか?
- 専門的な製品選定サポート: 私たちは、バルカーのふっ素樹脂ガスケットシリーズ(No.7010, 7010-EX, 7020など)それぞれの長所、短所、そして運用上の注意点を深く理解しています。お客様の要求(清浄度、メンテナンス頻度、温度、圧力)を詳細にヒアリングし、最も合理的で安全なシールソリューションをご提案します。
- 高精度なオーダーメイド加工: 自社工場に最新のカッティングプロッターやウォータージェット加工機を完備。お客様からいただいた図面(CADデータ)を基に、あらゆる複雑な形状のガスケットを、1枚からでも迅速かつ高精度に製作いたします。
- 信頼できる技術パートナーとして: ガスケットの選定ミスは、製品の品質汚染やプラントの安定稼働を脅かす重大なリスクです。私たちは単なる販売店ではなく、お客様の課題を共に解決する技術パートナーとして、専門的な知見で皆様のプラント運営をサポートします。
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