MGラスボード® 徹底ガイド
高温断熱と施工性を両立する金属補強ロックウール。
「ボイラーやタンクの断熱材が、振動や自重でずれたり、脱落したりして困っている」
「高温設備の断熱材を、スタッド(ピン)に確実に固定できる、強度の高いボードが欲しい」
「防火区画の貫通部に充填する、不燃性と施工性を兼ね備えた材料はないか?」…。
プラントや工場設備における断熱・吸音工事では、素材自体の「断熱性能」や「吸音性能」と同時に、「施工のしやすさ」や設置後の「形状保持性(耐久性)」が極めて重要になります。特に、高温に晒されるボイラーの壁面や大型タンクの鏡板など、複雑な形状や垂直な面への施工において、断熱材の固定と保持は長年の課題でした。
この、「高性能断熱」と「確実な施工性・耐久性」という二律背反の要求に応えるため、ニチアス株式会社が開発したのが、高性能ロックウール断熱材「MGボード®」に金属補強を施した「MGラスボード®」です。
この記事では、MGラスボード®がなぜ過酷な産業設備の断熱・吸音ソリューションとして選ばれるのか、その構造の秘密から、JIS規格に基づく確かな性能、そしてその優れた素材性能を現場のニーズに合わせて最大限に引き出す「加工技術」まで、徹底的に解説します。

第1部:MGラスボード®とは?— 高性能断熱材「MGボード」と「金属ラス」の融合
MGラスボード®を理解するために、まずはその基材となっているニチアスのスタンダード製品「MGボード®」の基本性能を理解する必要があります。
1-1. 基材「MGボード®」の卓越した基本性能
MGボード®は、ロックウール(耐熱性に優れた鉱石や高炉スラグを高温で溶融し、繊維化した人造鉱物繊維)に、熱硬化性樹脂をバインダーとして加え、板状(ボード)に成形した製品です。微細な繊維が複雑に絡み合い、内部に無数の動かない空気層を保持する構造になっています。この構造こそが、MGボード®の優れた性能の源泉です。
- 優れた「保温・断熱性」: 内部の微細な空気層が熱の伝達を効果的に遮断し、ボイラーやダクト、各種プラント機器の放熱を抑え、高い省エネルギー効果に貢献します 。
- 優れた「吸音性」: 音のエネルギーが内部の空気層と繊維との摩擦によって熱エネルギーに変換され、効果的に減衰されます。機械室や防音壁の吸音材として最適です 。
- 優れた「耐熱性・不燃性」: 原料が鉱石であるため、本質的に高い耐熱性を備えています 。JIS規格の熱間収縮温度は600℃以上を誇り、国土交通大臣認定の不燃材(NM-8600)でもあるため、防火・耐火性が求められる箇所にも安心して使用できます 。
- 高い「安全性」: ホルムアルデヒドの発散量が最も少ない「F☆☆☆☆」等級に適合しており、建築物内でも安全に使用できます 。
1-2. 性能の核心:「MGラスボード®」独自の金属補強
MGラスボード®は、この高性能な「MGボード 080」(密度80kg/m³)をベースに、その片面に「平ラス(ひし形金網)」を補強材として組み込んだ製品です 。
標準のMGボード®が繊維質であるがゆえの「柔らかさ」「脆さ」を持つのに対し、MGラスボード®は金属ラスと一体化することで、以下の決定的なメリットを獲得しています。
- 飛躍的な機械的強度の向上: ボード自体が金属ラスによって補強されるため、標準ボードに比べて格段に高い引張強度と耐衝撃性を持ちます。これにより、施工中の取り扱い(ハンドリング)で角が欠けたり、割れたりするリスクを大幅に低減します。
- 抜群の施工性(固定の容易さ): これが最大のメリットです。ボイラーの壁面やタンクの曲面などに断熱材を取り付ける際、スタッド(溶接ピン)やアンカーに断熱材を突き刺し、ワッシャーで固定します。標準ボードでは、振動や自重でピンの穴が広がったり、ボード自体が脱落したりする懸念があります。
しかし、MGラスボード®であれば、金属ラスがワッシャーを確実に保持し、面全体で力を分散させます。これにより、強固で安定した取り付けが可能となり、振動や自重による脱落を長期間防ぎます。
- 形状保持性の向上: 特に高温部の断熱において、熱による反りやたわみに対しても、金属ラスが骨格となって形状を維持するのに貢献します。
第2部:【選定編】MGラスボード®の仕様と最適なアプリケーション
MGラスボード®は、その特性から、標準のMGボード®では対応が難しい、より過酷な産業用と(インダストリアル)の領域で真価を発揮します。
2-1. MGラスボード®の製品仕様
ニチアスのカタログに記載されているMGラスボード®の標準仕様は以下の通りです。
- 製品名: MGラスボード®
- 種別(品番): 080メタルラス片面
- 基材密度: 80 kg/m³
- JIS規格:
- JIS A 9504(人造鉱物繊維保温材): ブランケット1号
- JIS A 6301(吸音材料): 吸音ブランケット1号
(※JIS上、金網付き製品は「ボード(板)」ではなく「ブランケット」に分類されます)
- 不燃認定: NM-8600(国土交通大臣認定 不燃材)
- 熱伝導率(平均温度70℃): 0.044 W/(m·K) 以下
- 熱間収縮温度: 600℃ 以上
- ホルムアルデヒド発散等級: F☆☆☆☆
2-2. 最適なアプリケーション(主な用途)
カタログには、MGラスボード®の主な用途として以下が挙げられています。
- タンク、ボイラなど機器の断熱・吸音: まさにMGラスボード®の独壇場です。大型のタンクやボイラーの垂直な壁面、あるいは曲面に対して、断熱材を確実に固定する必要があるため、金属ラスの補強が不可欠となります。
- 各種炉の断熱: 高温になる各種工業炉のバックアップ材として、耐熱性(600℃以上)と不燃性(NM-8600)が求められる箇所で使用されます。
- 防火区画貫通部: ビルや工場の壁・床を配管やダクトが貫通する部分には、火災時の延焼を防ぐための耐火処理が必要です。MGラスボード®は、その不燃性と加工性から、こうした隙間を埋める充填材としても使用されます。
第3部:【重要】取り扱い上の注意事項
MGラスボード®は金属とロックウールの複合材であるため、その取り扱いには特有の注意が必要です。
施工・保管時の必須確認事項
- 粉じん(ダスト)と皮膚刺激: 基材はMGボード®と同一です。切断・施工時にはロックウールの微細な繊維が飛散するため、防じんマスクの着用が推奨されます。また、繊維が皮膚に触れると一時的なかゆみを生じることがあるため、長袖の作業衣や保護手袋を着用してください 。
- 金属ラスによるケガ: 切断面の金属ラス(金網)は鋭利なエッジを持つことがあります。取り扱い時には、繊維による刺激防止だけでなく、金属ラスによる切創を防ぐためにも、必ず丈夫な保護手袋を着用してください。
- 初期加熱時の発煙: MGラスボード®は、繊維を固めるために有機バインダー(熱硬化性樹脂)を含んでいます。初めて高温(目安として150℃~200℃以上)にさらされる際、このバインダーが熱分解し、一時的に煙や臭気が発生します。これは製品の異常ではありませんが、必ず十分な換気を行ってください 。
- 水濡れ厳禁: 基材のMGボード®は撥水処理を施されていません(撥水品はMGハッスイボード®)。水に濡れると断熱・吸音性能が著しく低下するため、保管・施工中は水濡れに細心の注意を払い、常温・常湿の屋内で保管してください 。
最終章:答えはここにある。「選定のご依頼はダイコーへ」
この記事で見てきたように、ニチアスのMGラスボード®は、MGボード®の優れた断熱・吸音・不燃性能に、金属ラスの「強度」と「施工性」をプラスした、産業設備の高温対策に最適なソリューションです。
しかし、その優れた性能も、標準の板(605mm×910mm)のままでは、現場の複雑な設備形状に真に対応することはできません。
標準品では決して解決できない、現場固有の「加工」の課題。それに対して、50年以上の経験に裏打ちされた専門知識(ノウハウ)と、それを形にする加工技術(ソリューション)の両輪で応えることこそ、工業用製品の加工メーカーである株式会社ダイコーの真価です。
専門家による最適な「選定」
「本当にMGラスボード®が必要か?標準のMGボード®や、ロール状のMGワイヤードブランケット®の方がコストや施工性に優れていないか?」「屋外だが、150℃を超えるためMGハッスイボード®が使えない。MGラスボード®に金属板を巻く(ラッキング)べきか?」「選定のご依頼はダイコーへ」とお任せください。ダイコーの専門スタッフが、お客様の使用条件、施工方法、コスト要求までを詳細にヒアリング 。ニチアス・バルカー製品 はもちろん、ゴム 、樹脂 、金属 、そして電食防止用の絶縁材 まで、あらゆる工業製品の知見を基に、メーカーの垣根を越えた最適なソリューションをご提案します。
材質の選定に迷ったとき、標準品では対応できない特殊な加工が必要なとき、あるいはどこに頼めば良いか分からない課題に直面したとき。その答えは、常にここにあります。選定のご依頼はダイコーへ — どうぞ、お気軽にご相談ください。