カンプロファイルガスケット徹底解説|高シール性・耐熱性・加工性を両立する次世代ガスケット
「うず巻形ガスケットと同等のシール性能が欲しいが、もっと取り扱いやすいガスケットはないか?」「熱交換器のような狭いシール幅でも、確実に漏れを止めたい」「高温・高圧下で、長期間安定して使える信頼性の高いガスケットを探している」…。
プラントや圧力容器、熱交換器などのシールにおいて、性能と扱いやすさの両立は永遠の課題です。特に、大口径化や複雑形状化が進む現代の設備では、従来のガスケットでは対応が困難な場面も増えています。
このような高度な要求に応えるべく開発されたのが、金属の強度・耐熱性と、非金属の柔軟性・シール性を巧みに融合させた「カンプロファイルガスケット」です。ニチアス株式会社のTOMBO™ No. 1891シリーズをはじめ、各社から提供されるこの次世代ガスケットは、そのユニークな構造により、多くの現場でシールに関する課題を解決しています。
この記事では、カンプロファイルガスケットがなぜ「ボルテックスガスケットと同等のシール性」を持ちながら「本体のみで使用可能」なのか、その構造の秘密から、性能を決定づける表層材の選び方、そしてその能力を最大限に引き出すための正しい選定・使い方まで、徹底的に解説します。
第1部:カンプロファイルガスケットとは?その構造とシール原理
カンプロファイルガスケットは、「セミメタリックガスケット」に分類され、金属製の本体(コア)の両面に、柔らかいシール層(表層材)を貼り付けた構造をしています。その最大の特徴は、金属本体の表面に加工された同心円状の特殊な溝(のこ歯形状)にあります。
性能の核心:溝付き金属コアと表層材が生み出す高シール性
ボルトを締め付けると、フランジからの圧縮力は金属本体の「山」の部分(溝と溝の間)に集中します。この高い応力が、柔らかい表層材をフランジ面の微細な凹凸に強力に食い込ませ、極めて高いシール性能を発揮します。
この構造がもたらすメリットは多岐にわたります。
- うず巻形ガスケットに匹敵する高シール性: 溝による応力集中効果により、うず巻形ガスケットと同等レベルの高いシール性能を、より低い締付力で実現します。
- 優れた耐圧・耐熱性: 金属製の本体がガスケットの骨格となるため、高い圧力や温度に耐えることができます。使用限界は、金属本体と表層材の材質によって決まります。
- 狭いガスケット幅での設計が可能: うず巻形ガスケットが必要とする最小幅よりも、さらに狭い幅(最小5mm程度から)でも設計・製作が可能です 。これにより、熱交換器のチューブシート周りや圧力容器のカバーなど、シール幅が限られる箇所に最適です。
- 抜群の取り扱い性(特に大口径): 金属本体を持つため、膨張黒鉛シートのように脆くなく、うず巻形ガスケットのようにバラける(巻きがほどける)心配がありません。特にφ1000mmを超えるような大口径になっても、形状が安定しており、現場での取り付け作業が非常に容易になります 。
- 本体のみ(内外輪なし)での使用が可能: フランジに溝が設けられている場合(溝形 T&G、はめ込み形 M&F)、内外輪なしの「基本形」で使用できます。これにより、コスト削減と部品点数の削減に貢献します。

第2部:【材質選定編】性能を決定づける「表層材」の選び方
カンプロファイルガスケットのシール性能と使用限界を決定づける最も重要な要素が、金属本体に貼り付ける「表層材」です。ニチアスのTOMBO™ No. 1891シリーズでは、主に3種類の表層材が用意されています。
1. TOMBO™ No.1891-GR(膨張黒鉛 / グラシール®)表層 — 高性能のスタンダード
- 特性:
- 優れた耐熱性: 最高400℃までの高温域で使用可能です。
- 優れた耐薬品性: 強酸化性流体を除く、多くの化学薬品に対して安定しています。
- 抜群のシール性: 非常に柔らかく、フランジ面の微細な凹凸によく追従するため、低い締付力でも高いシール性能を発揮します。
- 低い応力緩和: 高温下でもへたりにくく、長期的に安定したシールを維持します。
- 最適な用途: 高温・高圧の蒸気、熱媒体油、炭化水素ガス、各種化学薬品(非酸化性)など、最も広範囲な用途に対応できる標準的な選択肢です。ただし、強酸化性酸(硝酸、濃硫酸など)や純酸素ガスには使用できません 。
2.TOMBO™ No.1891-TF(PTFE / ナフロン®)表層 — 究極の耐薬品性とクリーン性
- 特性:
- 究極の耐食性: 溶融アルカリ金属などを除く、ほぼ全ての化学薬品に対して侵されることがありません。GR表層が使用できない強酸化性流体にも対応可能です。
- 非汚染性: 流体を汚染しないため、ファインケミカル、医薬品、食品ラインにも適しています。
- 低い摩擦係数: フランジ面への固着がしにくい特性を持ちます。
- 使用温度: 最高使用温度は260℃と、GR表層よりは低くなります。
- 最適な用途: 強酸・強アルカリ、各種溶剤といった腐食性の高い流体を扱うライン。純酸素ガスライン(特殊処理が必要な場合あり)。製品純度が求められるクリーンなプロセス。
3.TOMBO™ No.1891-NM(NMシート)表層 — 1000℃の超高温域を制する特殊材
- 特性:
- 驚異的な耐熱性: ニチアス独自の高温用シートであるNMシートを表層材に使用することで、最高1000℃という超高温域での使用を可能にします 。
- 優れた耐酸化性: 400℃を超えてもシートの酸化消失がほとんどなく、高温条件下で長期間安定したシール性を維持します 。
- 抜群の取り扱い性: 大口径でもバラける心配がなく、施工性に優れます 。
- 最適な用途: 排ガスライン、燃焼炉、各種加熱炉など、グラシール(膨張黒鉛)では耐えられない400℃を超える酸化雰囲気の高温ガスのシール。高温条件下での長期信頼性が求められる箇所。
第3部:【形状選定編】フランジに合わせた最適な形状を選ぶ
カンプロファイルガスケットは、フランジの形状に合わせて適切な形状を選定することが重要です。
- 基本形: 内外輪を持たない、金属本体と表層材のみのシンプルな形状です。フランジに溝が設けられている溝形(T&G)およびはめ込み形(M&F)フランジに使用されます 。
- ハンガー付 / 外輪付: フランジ面が平坦な平面座(RF)や全面座(FF)フランジに使用する場合、ガスケットをフランジの中心に正確に配置(センタリング)するために、ハンガーまたは外輪を取り付けた形状を選定します 。特に配管規格のクラス150/300の場合は外輪付が標準となります 。ハンガーは、特に大口径や垂直フランジでの取り付けを容易にする目的で用いられます。
第4部:性能を100%引き出すための正しい使い方と注意点
【最重要】施工・使用上の注意点
- 表層材の取り扱い: 表層材、特に膨張黒鉛(GR)やPTFE(TF)は非常に柔らかく、傷がつきやすい素材です。ガスケット表面に傷が付くと、そこが漏れの原因となります。金属本体が見えるほどの深い傷が入ったものは使用できません。取り扱いには細心の注意が必要です 。
- フランジ座の表面仕上げ: 高いシール性能を発揮するためには、フランジ面の平滑度も重要です。推奨される表面粗さは、液体シールで6.3μmRa以下、ガスシールで3.2μmRa以下と、比較的滑らかな仕上げが求められます 。
- 材質選定(金属本体・外輪): 金属本体や外輪の材質は、使用温度、耐食性に加え、フランジ材質との電食(ガルバニック腐食)を考慮して選定する必要があります。原則としてフランジと同等以上の耐食性を持つ材質を選びますが、判断に迷う場合は専門家への相談が不可欠です。
- 高締付力と均一な締め付け: カンプロファイルガスケットは、うず巻形ガスケットと同等の高いシール性能を発揮するため、相応の締付力が必要です。ボルトにはSNB7などの高張力ボルトの使用を推奨します。また、締め付けは必ずトルクレンチを使用し、対角線上に均一に行う「対角締め」を徹底してください。
最終章:答えはここにある。「複雑な選定・加工はダイコーへ」
カンプロファイルガスケットは、うず巻形ガスケットに匹敵する高性能と、シートガスケットのような扱いやすさを兼ね備えた、非常に優れたシール材です。特に、熱交換器や大口径フランジなど、従来のガスケットでは対応が難しかった領域で、その真価を発揮します。
しかし、その選定は、表層材、金属本体、形状、そしてフランジとの相性まで考慮に入れる必要があり、専門的な知識が不可欠です。
「1000℃対応のNM表層を使いたいが、金属本体はどの材質が良いのか?」
「熱交換器用に、パス(仕切り板)の形状に合わせた特殊なカンプロファイルガスケットを製作してほしい」
「フランジが特殊な樹脂ライニングだが、電食を起こさずにシールできるか?」
このような、カタログのスペック表だけでは決して答えの出ない、現場固有の課題。それに対して、50年以上の経験に裏打ちされた専門知識(ノウハウ)と、それを形にする加工技術(ソリューション)の両輪で応えることこそ、工業用製品の加工メーカーである株式会社ダイコーの真価です。
専門家による最適なソリューション提案
ダイコーでは、お客様の使用条件(流体、温度、圧力、フランジの規格・材質など)を専門の技術スタッフが詳細にヒアリング。GR、TF、NMといった表層材、SUS304、SUS316Lなどの金属本体、そして基本形、外輪付、ハンガー付といった形状の中から、お客様の課題を解決する最適な仕様を的確にご提案します。電食対策についても、適切な材質選定や絶縁材との組み合わせを含め、トータルでサポートします。
自社加工によるオーダーメイド対応力
ダイコーは、レーザー加工機やウォータージェット加工機といった最先端の加工設備を駆使し、お客様のあらゆるご要望に迅速かつ柔軟に対応できます。規格にない特殊な寸法のガスケットはもちろん、図面一枚から1個だけでもオーダーメイドで製作。緊急のトラブル時にも、その機動力を最大限に発揮します。
材質の選定に迷ったとき、特殊な加工が必要なとき、あるいはどこに頼めば良いか分からない課題に直面したとき。その答えは、常にここにあります。複雑な選定・加工はダイコーへ — どうぞ、お気軽にご相談ください。