ダイコー ガラスクロス・生体溶解性クロス|排ガス・高温部のシールを担う耐熱ガスケット【徹底解説】
「ボイラーのマンホールパッキンが、熱で硬化してすぐに漏れてしまう」「排ガスダクトのフランジは、面が粗くてシートガスケットではシールしきれない」「法規制に対応した、安全なノンセラミックの耐熱材が欲しい」…。
発電所、ごみ焼却炉、ボイラー、乾燥炉といった高温設備において、一般的なガスケットは熱によってその性能を瞬く間に失ってしまいます。このような過酷な環境下で確実なシールを実現するためには、熱そのものに耐えうる「耐熱性」と、歪みや凹凸のあるフランジ面にも追従する「柔軟性」を兼ね備えた、特殊なガスケットが不可欠です。
この要求に応えるのが、工業用製品の加工メーカーである株式会社ダイコーが、原料の織物から最終製品まで一貫して自社製造する「ガラスクロスガスケット」と「生体溶解性クロスガスケット」です。
この記事では、株式会社ダイコーの公式総合カタログに基づき、これら耐熱クロスガスケットがなぜ高温部のシールに最適なのか、その製造プロセスから、用途に応じた材質の選定、そして知っておくべき限界と注意点まで、徹底的に解説します。
第1部:ダイコー製耐熱クロスガスケットとは?その構造と性能の核心
ダイコーが提供する耐熱クロスガスケットは、耐熱性に優れた繊維を織り上げた「クロス(布)」を基材としています。しかし、単なる布ではありません。シール材として機能させるため、独自の加工技術が施されています。
性能の核心①:シール性と加工性を付与する「ゴム引き加工」
ガラス繊維や生体溶解性繊維を織り上げたクロスは、そのままでは繊維の隙間からガスが漏れてしまい、シール材として機能しません。また、裁断すると端からほつれてしまい、加工が困難です。
そこでダイコーでは、これらの課題を解決するため、原反生地へのゴム溶剤塗布工程(ゴム引き加工)を内製化しています 。
ゴム引き加工の役割:
- シール性の向上: ゴムが繊維の隙間を埋め、ガスの透過を防ぎます。
- 加工性の向上: ゴムが繊維を固めることで、裁断、打ち抜き、縫製といった加工が容易になり、ほつれを防ぎます 。
- 柔軟性の付与: ゴムの弾性が加わることで、フランジ面への追従性が向上します。
このゴム引き加工こそが、単なる耐熱布を高性能な「ガスケット材料」へと昇華させる、ダイコーのコア技術の一つなのです。
性能の核心②:要求厚みを実現する「積層」技術
ゴム引き加工を施したクロスを複数枚重ね合わせ、圧着することで、お客様が要求する厚みのガスケットシートを成形します 。この積層技術により、薄いものから厚いものまで、様々な厚みのガスケットを自在に製造することが可能です。

第2部:用途で選ぶ2つの基材 —「ガラスクロス」と「生体溶解性クロス」
ダイコーの耐熱クロスガスケットは、基材となる繊維の違いによって、主に2つの製品ラインナップに分かれます。選定の鍵は**「使用温度」**です。
1. D5400 (ガラスクロスガスケット) — 400℃までの中高温域をカバー
構造と性能:
基材にガラス繊維(ガラスクロス)を用いた、コストパフォーマンスに優れた耐熱ガスケットです。ガラスクロスに天然ゴムを塗布し、積層・成形して作られます 。安全使用温度は400℃であり 、ボイラー、乾燥炉、排ガスダクトなど、多くの中高温設備でその性能を発揮します。
主な製品形態:
- D5400(シート・加工品): 額縁パッキンやマンホールガスケットなど、指定の形状に加工して提供されます 。
- D5400-T(ガラステープ): 小幅にスリットされたテープ状の製品で、大口径ダクトのパッキン材や、配管の保温・断熱、火傷防止などに使用されます 。
- D5400-R(ガラスリボン) / D5400-M(ガラス丸打ち) / D5400-K(ガラス角打ち): より厚みや特殊な断面形状が求められる箇所に使用される紡績品です 。
2. D5800 (生体溶解性クロスガスケット) — 800℃までの高温域に対応する安全なノンセラミック材
構造と性能:
基材に生体溶解性繊維(Bio-Soluble Fiber)を用いた、より高性能な耐熱ガスケットです。安全使用温度は800℃に達し 、ガラスクロスでは対応できない、より高温の領域をカバーします。特筆すべきは、その安全性です。かつて高温用断熱材として広く使われたセラミックファイバー(RCF)は、現在、特定化学物質として法規制の対象となっています。D5800が使用する生体溶解性繊維は、RCFの代替品として開発されたもので、万が一体内に吸入されても速やかに溶解・排出される特性を持ち、作業者の安全を確保します 。
主な製品形態:
- D5800(シート・加工品): SUS金属線で補強された生体溶解性クロスに天然ゴムを塗布しており、ガラスクロス製よりもさらに高い強度と耐熱性を持ちます 。
- D5800-T(セラミックテープ※) / D5800-R / D5800-M / D5800-K: ガラスクロス製品と同様に、テープ状や各種紡績品のラインナップがあり、より高温域での断熱やシールに使用されます 。
※カタログでは慣例的に「セラミックテープ」と表記される場合がありますが、材質はRCF規制に対応した安全な生体溶解性繊維です。
第3部:性能を最大限に引き出すための正しい知識とオプション
耐熱クロスガスケットは非常に優れた製品ですが、その特性を理解せずに使用すると、期待した性能が得られない場合があります。
【最重要】気密性に関する注意点
これらのガスケットは、繊維織物をベースにしているため、ゴムや樹脂、膨張黒鉛などで作られた緻密なガスケットと比較すると、完全な気密性を得ることは困難です。カタログには「但しこのガスケットは気密性には優れておりません、多少の漏れが許される箇所でのご使用になります」という重要な注意書きがあります 。
ボイラーのマンホールや点検口、熱風・排ガスダクトなど、完全な密閉が要求されない箇所での使用が前提となります。
メンテナンス性を向上させる表面処理オプション
高温部で使用されるガスケットは、フランジ面に焼き付いて固着し、交換時の剥離作業が困難になることがあります。この問題を解決するため、ダイコーでは表面処理オプションを用意しています。
- D5400-G / D5800-G(黒鉛処理品): ガスケットの表面に黒鉛処理を施したタイプです 。黒鉛の潤滑性により、フランジ面への焼き付きを防止し、剥離性を向上させます。これにより、メンテナンス作業の時間を大幅に短縮し、作業負担を軽減することができます。
- テフロン処理品: 同様に、表面にPTFE(テフロン)処理を施すことで、さらに高い非粘着性を付与することも可能です。
最終章:答えはここにある。「複雑な選定・加工はダイコーへ」
ガラスクロスと生体溶解性クロス。どちらも高温環境に不可欠なシール材ですが、その選定と加工は、専門的な知識なくしては困難です。
「うちの設備の温度は450℃だが、コストを考えてガラスクロスでいけないか?」
「ダクトの形状が非常に複雑で、現場でテープを貼るのが難しい。図面通りに一体成形できないか?」
「ガスケットの焼き付きに毎回悩まされている。黒鉛処理で本当に改善されるのか?」
このような、カタログのスペック表を眺めるだけでは決して答えの出ない、現場固有の課題。それに対して、原料の選定から最終加工までを一貫して手掛けるメーカーならではの専門知識(ノウハウ)と、それを形にする加工技術(ソリューション)の両輪で応えることこそ、ダイコーの真価です。
専門家による最適なソリューション提案
ダイコーでは、お客様の使用温度、圧力、フランジ面の状態、そしてメンテナンスの頻度までを詳細にヒアリング。400℃までなら「D5400」、それ以上なら「D5800」、焼き付きが懸念されるなら「黒鉛処理品」と、豊富な選択肢の中から、お客様の課題を解決する最適な仕様を的確にご提案します。
一貫生産体制によるオーダーメイド対応力
ゴム引きから積層、そして最終加工までをすべて自社で行う一貫生産体制により、お客様のあらゆるご要望に迅速かつ柔軟に対応します。ウォータージェット加工機やプロッターを駆使し、単純なリング形状から、ボルト穴付きの複雑な額縁形状まで、図面一枚で1個からオーダーメイド製作。ダイコーにしかできない、きめ細やかな対応力で、お客様の「困った」を解決します。
材質の選定に迷ったとき、特殊な加工が必要なとき、あるいはどこに頼めば良いか分からない課題に直面したとき。その答えは、常にここにあります。複雑な選定・加工はダイコーへ — どうぞ、お気軽にご相談ください。