ダイコー D1000 うず巻き型ガスケット選定ガイド|高温・高圧・低温を制する究極のシール材
「ジョイントシートでは耐えられない高温・高圧の蒸気ラインだ」「低温流体を、確実にシールしたい」「熱サイクルが繰り返される過酷な環境下で、長期的に安定したシール性能が欲しい」…。
プラントの心臓部とも言えるこのような過酷な条件下では、一般的なガスケットでは到底対応できません。こうした厳しい現場の要求に応えるために、工業用製品の加工メーカーである株式会社ダイコーが、その技術の粋を集めて提供するのが、高性能セミメタリックガスケット「D1000 うず巻き型ガスケット」です 。
この記事では、D1000 うず巻き型ガスケットがなぜプラントの重要配管や機器に不可欠な存在なのか、その緻密な構造と卓越した性能、そしてその能力を最大限に引き出すための正しい選定・使用方法まで、徹底的に解説します。
第1部:ダイコー D1000とは?その構造と卓越した性能
D1000 うず巻き型ガスケットは、非金属ガスケットの柔軟性と、メタルガスケットの強度・耐熱性を兼ね備えた「セミメタリックガスケット」の代表格です 。その信頼性の高さから、火力・原子力発電所、石油精製・化学プラント、LNG基地など、日本の基幹産業を支える数多くの設備で採用されています。
性能の核心:金属フープとフィラーが織りなす緻密な「うず巻き構造」
D1000の性能の秘密は、そのユニークな構造にあります。V字型に成形された金属の薄帯(金属フープ)と、シール材となるクッション材(フィラー)を交互に、渦巻き状に高密度で巻き上げ、巻き始めと終わりをスポット溶接で強固に固定して作られます 。
この構造により、以下の卓越した性能が生まれます。
- 優れたシール性と豊かな弾性: 金属フープのV字形状がバネのような働きをし、豊かな弾性を生み出します。これにより、ボルトの締付力を効率的にシール力へと変換。さらに、配管の熱膨張や振動、圧力の変動といった過酷な条件下でも、フランジ面へ柔軟に追従し、長期にわたり安定した高いシール性能を維持します 。
- 高温・高圧から極低温まで対応する広範な使用範囲: 金属フープと、耐熱性に優れたフィラー材を組み合わせることで、一般的なジョイントシートでは到底到達できない、極めて広い温度・圧力範囲をカバーします。
- 締付量の制御が可能: 後述する内外輪を取り付けることで、過剰な締め付けによるガスケットの破損(圧縮破壊)を防ぎ、常に最適な状態で使用することが可能です 。
用途を決定づける2種類の「フィラー材」
D1000は、中間に挟み込むフィラー材を選択することで、様々な流体・温度条件に対応できます。
- ① グラファイトフィラー材(標準仕様): フィラー材にグラファイト(膨張黒鉛)テープを用いた、最も汎用性の高い仕様です 。グラファイトが持つ優れた耐熱・耐寒性により、-270℃の極低温から450℃の高温までという、非常に広い温度範囲で使用可能です 。低温流体から、高温の蒸気、熱媒体油まで、幅広い分野でその性能を発揮します 。
- ② テフロン(PTFE)フィラー材(受注生産品): フィラー材にPTFE(ふっ素樹脂)テープを用いた、耐薬品性に特化した仕様です 。PTFEの優れた耐食性により、グラファイト系では対応が難しい酸・アルカリなどの腐食性流体に最適です 。使用温度範囲は-260℃~300℃となります 。

第2部:性能を100%引き出すための正しい形状選定と使用上の注意
D1000 うず巻き型ガスケットは、フランジの形状や使用条件に合わせて、主に3種類の形状を使い分けることが、性能を最大限に引き出す鍵となります。
1. 内外輪付 うず巻き型ガスケット(最も推奨される形状)
うず巻き部分の外周に外輪、内周に内輪を取り付けた、最も信頼性の高いタイプです 。
役割とメリット:
- 外輪: ガスケットをフランジの中心に正確に配置する「芯出し(センタリング)」を容易にします 。また、締付力を均等に分散させ、うず巻き部分が外側へはみ出すのを防ぎます。
- 内輪: 締付面圧を適切に保持し、過剰な締め付けによる圧縮破壊を防ぎます 。また、流体によるうず巻き部分の内径側からの侵食や、負圧によるフィラーの吸い出しを防ぐ役割も担います。
適用フランジ: フランジ面が平らな「平面座」や、シール面が一段高くなった「フランジ全面座」に最適です 。
2. 外輪付 うず巻き型ガスケット
うず巻き部分の外周に外輪のみを取り付けたタイプです 。
役割とメリット: 内外輪付きと同様に、外輪が芯出しを容易にし、過剰な締め付けを抑制します 。内外輪付きほどの高い耐圧性を必要としない、比較的穏やかな条件で使用されます 。
適用フランジ: 「平面座」や「フランジ全面座」に使用されます 。
3. 基本形 うず巻き型ガスケット
内外輪を持たない、うず巻き部分のみの最もシンプルなタイプです 。
役割とメリット: フランジに設けられた溝に正確にはめ込んで使用するため、内外輪がなくても高いシール性能を発揮します 。
適用フランジ: フランジに凹凸を設けてガスケットをはめ込む「はめ込み形」や「溝形」のフランジ専用です 。一般的な平面座フランジには適していません 。
【最重要】D1000を選定・使用する上での注意点
- フィラー材の取り扱い: D1000のシール性能の要であるフィラー材は、衝撃に弱く破損しやすい性質を持っています。施工前の取り扱いには十分な注意が必要です 。
- 電食(異種金属接触腐食)への配慮: フランジの材質と、ガスケットの金属フープや内外輪の材質が異なると、電位差によりフランジやガスケットが腐食する「電食」が発生するリスクがあります 。原則として、フランジと同系統の金属材料を選定することが重要です。判断に迷う場合は、必ず専門家への相談が必要です。
- スリップオン溶接式フランジへの注意: このタイプのフランジに内外輪付きガスケットを使用すると、内輪の内径が配管の内径よりも小さくなり、流体の流れを阻害する可能性があります。突合せ溶接式フランジでの使用が推奨されます 。
最終章:答えはここにある。「複雑な選定・加工はダイコーへ」
D1000 うず巻き型ガスケットは、その優れた性能から、プラントの安全性と生産性を支える上で不可欠なシール材です。しかし、その選定は、フランジの形状、流体の種類、温度、圧力、そして電食のリスクまで考慮に入れる必要があり、極めて専門的な知識が求められます。
「高温の腐食性ガスラインだが、フープ、内外輪、フィラーの最適な材質の組み合わせが分からない」
「熱交換器のマンホール用に、規格にない巨大な楕円形のうず巻きガスケットが緊急で必要になった」
「既存の溝形フランジにぴったり合う、特殊な厚みの基本形ガスケットを製作してほしい」
このような、カタログの標準品だけでは決して解決できない、複雑で高度な課題に直面したときこそ、私たち株式会社ダイコーの出番です。
専門家による最適なソリューション提案
ダイコーでは、お客様の使用条件を専門の技術スタッフが詳細にヒアリング。長年の経験と豊富な材料知識を基に、SUS304、SUS316といった標準材から、インコネル、ハステロイ、チタンといった特殊金属、そしてグラファイト、PTFEといったフィラー材まで、無数の選択肢の中から、お客様の課題を解決する最適な材質・形状のうず巻き型ガスケットを的確に選定・ご提案します。電食防止のための絶縁対策についても、絶縁ボルトや絶縁ガスケットと組み合わせたトータルソリューションをご提供可能です。
自社製造によるオーダーメイド対応力
ダイコーは、うず巻き型ガスケットの製造設備を自社で保有しており 、お客様のあらゆるご要望に迅速かつ柔軟に対応できます。JISやASME/ANSI、JPIといった各種規格品はもちろんのこと、小口径から大口径、さらには楕円形や特殊な形状まで、図面一枚からオーダーメイドで製作 。緊急のメンテナンス時にも、その機動力を最大限に発揮します。
標準的な高温・高圧ラインには、信頼と実績の「D1000」を。そして、それだけでは解決できない高度な材質選定や特殊形状の要求には、専門知識と自社製造の対応力を。
材質の選定に迷ったとき、特殊な加工が必要なとき、あるいはどこに頼めば良いか分からない課題に直面したとき。その答えは、常にここにあります。複雑な選定・加工はダイコーへ — どうぞ、お気軽にご相談ください。