電食防止の実践ガイド|最適な絶縁ガスケット製品の選定【徹底解説】
「異種金属を組み合わせたら、片側だけが異常に錆びてしまった」「配管フランジのボルト周りから腐食が広がっている」…これらは、プラントや機械設備で頻繁に遭遇する「電食(でんしょく)」が引き起こす典型的なトラブルです。電食は、目に見えない電気の力で金属を静かに、しかし確実に蝕んでいく厄介な現象。対策を怠れば、設備の寿命を縮めるだけでなく、配管の破損や漏洩といった重大な事故につながる可能性も否定できません。
しかし、ご安心ください。電食は、そのメカニズムを正しく理解し、適切な対策を講じることで、確実に防ぐことが可能です。この記事では、数ある電食防止策の中でも、最も確実かつ効果的な「電気絶縁」に焦点を当て、その具体的な手法から、現場の条件に合わせた最適な絶縁製品の選定方法までを、網羅的に徹底解説します。そして、なぜ複雑な絶縁設計・製品選定において専門家への相談が不可欠なのか、その答えを明らかにします。
第1部:なぜ電食は起こるのか?その脅威を再確認する
対策を講じる前に、敵の正体をもう一度確認しましょう。電食は、金属が電気的な作用によって腐食する現象で、主に2つのタイプがあります。
1. 異種金属接触腐食(ガルバニック腐食)
これが電食の代表格です。性質の異なる金属(例:ステンレス鋼のフランジに炭素鋼のボルト)が、水や結露などの電解液を介して接触すると、そこに微小な電池(ガルバニックセル)が形成されます。金属固有の「イオン化傾向(錆びやすさ)」の違いから電位差が生じ、イオン化傾向の大きい(卑な)金属が陽極(アノード)となり、まるで身を犠牲にするかのように電子を放出して溶け出していきます(腐食)。一方、イオン化傾向の小さい(貴な)金属は陰極(カソード)となり、保護されます。これが、ボルトの周りだけ、配管の接続部だけといった局所的な腐食の直接的な原因です。
2. 迷走電流腐食
鉄道のレール(直流電気を使用)や他の電気設備から漏れ出た電流(迷走電流)が、大地を伝って近傍の地中埋設金属配管などに流れ込み、そこから再び大地へ流れ出す際に、出口となる部分で激しい腐食を引き起こす現象です。意図しない外部からの電流が原因となる、非常に厄介で見えざる脅威と言えます。
電食が引き起こす甚大な損害:
これらの電食現象は、単なる美観の問題ではありません。配管に穴が開き、危険な流体が漏洩する。重要構造物の強度が低下し、倒壊のリスクが高まる。製品に錆(腐食生成物)が混入し、品質問題を引き起こす。こうしたリスクを回避するため、「電食は起きてから対処するのではなく、設計・施工段階で予防するもの」という意識が極めて重要になります。

第2部:電食防止の王道にして最善策、「電気絶縁」のすべて
電食を防止する方法には、塗装やめっきといった表面処理、環境管理、電気防食など複数のアプローチがありますが、その中でも最も基本的かつ効果的な対策が「電気絶縁」です。
なぜ「絶縁」が有効なのか?
電食の根本原因は、異種金属間に「電気回路」が形成され、電流が流れることにあります。電気絶縁とは、この電気回路を物理的に遮断する行為です。絶縁性に優れた材料(電気を通さない材料)を異種金属間に挟み込むことで、電子の移動経路を断ち、腐食の連鎖反応そのものを根絶するのです。
絶縁は、電食の発生条件である「電気的な接続」を断ち切る、最も直接的で信頼性の高い防止策と言えます。
第3部:【実践編】絶縁による電食防止策と最適な製品選定
では、具体的にどのように電気絶縁を施せばよいのでしょうか。ここでは、プラントで最も一般的な「配管フランジ」を例に、具体的な絶縁方法と、そのために使用される製品を詳しく見ていきましょう。これらの絶縁製品を組み合わせたものは「絶縁フランジキット」として提供されることもあります。
Step 1: フランジ面を絶縁する「絶縁ガスケット」
配管同士を接続するフランジ面は、異種金属が広範囲に接触する可能性のある最重要ポイントです。ここには、シール機能と絶縁機能の両方を兼ね備えた「絶縁ガスケット」を使用します。
- 役割: フランジとフランジの間に挟み込み、内部流体をシールすると同時に、両フランジ間の電気的な導通を完全に遮断します。
- 種類と選定ポイント: 絶縁ガスケットの材質選定は、絶縁性能はもちろんのこと、流体の種類、温度、圧力というガスケット本来の選定基準を満たすことが大前提となります。
- 耐薬品性・クリーン性重視 (常温~100℃): PTFE(ふっ素樹脂)は、ほぼ全ての化学薬品に耐性があり、非汚染性にも優れるため、化学プラントや食品・半導体ラインに最適です。特に柔軟な中芯材をPTFEで覆った「PTFEクッションガスケット」は、低い締付力でも優れたシール性を発揮します。
- 高温用途 (100℃~200℃): 特殊な充填材を配合し、PTFEの耐熱性を向上させたグレードが使用されます。(例:ニチアス株式会社製 TOMBO™ No.9007-LC、株式会社バルカー製 No.7020)
- さらに高温の用途 (200℃~300℃): より耐熱性に優れた特殊ふっ素樹脂をベースにしたガスケットが選定されます。(例:ニチアス株式会社製 TOMBO™ No.1133)
- シール性が求められる場合: 柔軟な中芯材をPTFEで覆った「PTFEクッションガスケット」は、低い締付力でも優れたシール性を発揮します。
Step 2: ボルト・ナットを絶縁する「絶縁スリーブ&ワッシャー」
フランジ面を絶縁ガスケットで絶縁しても、フランジ同士を締め付けているボルトとナットが両方のフランジに接触していては、そこが新たな電気回路(バイパス)となり、電食が発生してしまいます。これを防ぐために、絶縁スリーブと絶縁ワッシャーが不可欠です。
■絶縁スリーブ(ボルトスリーブ)
- 役割: ボルトの軸部分に被せる筒状の絶縁材です。ボルトがフランジのボルト穴の内壁に接触するのを防ぎます。
- 選定ポイント: ボルト径に正確に適合し、フランジの総厚みに応じた長さが必要です。材質は、絶縁性に優れたPTFEや、耐熱性が求められる場合はマイカなどが使用されます。
■絶縁ワッシャー
- 役割: ナットおよびボルト頭部と、フランジ表面との間に設置します。ボルトの締付力が直接フランジにかかる部分を電気的に絶縁します。通常、両側のフランジに2枚ずつ、計4枚の絶縁ワッシャーを使用します。
- 選定ポイント: ボルトの強大な締付力に耐える高い圧縮強度と絶縁性能が求められます。エポキシガラス樹脂(GFRP)が最も一般的に使用されますが、高温条件下ではマイカワッシャー、さらに高い強度が求められる場合は特殊エンジニアリングプラスチックなどが選定されます。
【重要】これら「絶縁ガスケット」「絶縁スリーブ」「絶縁ワッシャー」の3点セットを正しく施工することで、フランジ接続部は電気的に完全に分離され、電食のリスクをほぼゼロにすることが可能となります。
最終章:複雑な絶縁設計・製品選定は、専門家「ダイコー」へ
この記事で解説したように、電食防止、特に電気絶縁は、単純に見えて非常に奥深い世界です。
「高温の強アルカリラインで使える、最適な絶縁フランジキットは存在するのか?」
「海外規格の特殊なフランジに合わせた絶縁ガスケットを、1枚だけ緊急で製作してほしい」
「図面上のこの異種金属接触部は、どのような絶縁対策が最もコスト効率が良いか?」
このような、カタログの標準品だけでは解決できない、あるいは専門的な知見がなければ判断が難しい課題に直面したとき、ぜひ頼っていただきたいのが、私たち株式会社ダイコーです。
1. 専門家による最適なソリューション提案
ダイコーでは、お客様の使用条件(流体、温度、圧力、規格など)を専門の技術スタッフが詳細にヒアリング。長年の経験と豊富な材料知識を基に、数ある絶縁材料の中から、お客様の課題を解決する最適な材質・形状の絶縁製品を選定し、ご提案します。単に製品を売るのではなく、問題の根本原因から解決策を導き出します。
2. 1個から対応可能なオーダーメイド加工
最新鋭のカッティングプロッターやウォータージェット加工機、NC旋盤といった多彩な加工設備を駆使し、お客様からいただいた図面(CADデータ)や現物サンプルを基に、あらゆる形状・寸法の絶縁ガスケット、ワッシャー、スリーブを1個からでも迅速に製作。JIS規格だけでなく、ASME、JPIといった海外規格や、規格にない特殊寸法品まで、柔軟に対応いたします。
電食対策は、後手に回ると大きな損害につながります。設備の設計段階、メンテナンス計画の際に、少しでも電食のリスクや絶縁対策に不安を感じたら、悩む前にまず私たち専門家にご相談ください。確かな技術と知識で、お客様の大切な設備を電食の脅威から守る、最適なソリューションをご提供します。