バルカー No.7590シリーズ|腐食性流体・酸素ラインを制する「ホワイトタイト」徹底解説
「強酸化性酸のラインで、膨張黒鉛ガスケットが侵されてしまう」「純酸素を扱う配管で、安全性が認証されたガスケットが必要だ」「ファインケミカルの製造プロセスで、流体を汚染しない高気密なシール材を探している」…。
化学プラントや半導体工場、医療・食品分野など、極めて高い清浄度や、他の材料では耐えられないほどの強い腐食性が求められる環境。そこでは、一般的なガスケットはもちろん、高性能とされるグラファイト系のシール材でさえも使用が困難な場合があります。
このような究極の化学的条件下で、最後の砦として圧倒的な信頼性を誇るのが、バルカー社が開発した「バルカー No. 7590シリーズ(通称:ホワイトタイト)」です。
この記事では、ホワイトタイトがなぜ最も過酷な化学的環境下で指名されるのか、その性能の核心である「バルフロン®フィラー」の秘密から、能力を最大限に引き出すための正しい選定・使用方法まで、徹底的に解説します。
第1部:ホワイトタイトとは?その構造と「PTFEフィラー」の圧倒的性能
ホワイトタイトは、高温・高圧に対応する「うず巻形ガスケット」の一種です。V字型に成形された金属の薄帯(金属フープ)と、シール材となるクッション材(フィラー)を交互に渦巻き状に巻き上げた基本構造は、他のうず巻形ガスケットと共通しています。
しかし、その性能を決定的に特徴づけているのが、フィラー材にあります。
性能の核心:究極の耐薬品性を持つ「バルフロン®(PTFE)フィラー」
バルカー No. 7590シリーズのフィラーには、その驚異的な化学的安定性で知られる**バルフロン®(PTFE、ポリテトラフルオロエチレン)が100%使用されています 。このPTFEフィラーこそが、ホワイトタイトに他のいかなるうず巻形ガスケットも持ち得ない、絶対的なアドバンテージを与えています。
- 究極の耐食性: PTFEは、溶融アルカリ金属などを除く、ほぼ全ての化学薬品に対して侵されることがありません 。製品資料の用途別選定表には、「腐食性流体(強酸・強アルカリ)」に対して、ブラックタイト(膨張黒鉛)が「△(条件により適用)」であるのに対し、ホワイトタイトは「◎(推奨)」と明確に示されています 。これは、膨張黒鉛でさえも侵してしまうような過酷な流体に対しても、PTFEフィラーが完璧なバリアとして機能することを意味します。
- 優れた気密性と安全性: PTFEは緻密で柔軟な素材であり、低い締付力でもフランジ面によくなじみ、高い気密性を発揮します。この特性から、「ガスシールや真空シール性能に優れている」とされており、特に「酸素ラインに最適」と明記されています 。これは、燃焼を支える支燃性ガスである純酸素ラインでも安全に使用できることを示しており、極めて高い安全性が求められる用途での信頼性の高さを物語っています。
- 非汚染性(クリーン性): PTFEは化学的に極めて不活性であり、ガスケットから流体へ成分が溶け出す(溶出する)ことがありません。そのため、製品の純度が厳しく管理されるファインケミカル、医薬品、食品などの製造プロセスにおいて、流体を汚染しないクリーンなシール材として理想的です。「汚染をきらう用途」においても推奨されています 。
- 広範な使用温度範囲: ホワイトタイトは、-260℃の極低温から300℃の高温までという広い温度範囲をカバーします 。これにより、極低温の腐食性流体から、化学プラントのプロセスラインまで、幅広い用途に対応可能です。

第2部:ホワイトタイトの性能を最大限に引き出すための正しい選定と使い方
ホワイトタイトは、その特殊な性能ゆえに、選定と使用において必ず守るべき重要なルールが存在します。
1.【最重要】内輪は必須 — PTFEフィラーの性能を支える生命線
製品資料には、「No.7591(外輪付)は内径側に異常変形を起こす恐れがあるため、できるだけ内外輪付を使用してください」と、明確な注意書きがあります 。これは、ホワイトタイトを選定・使用する上での絶対的なルールです。
なぜ内輪が必須なのか?
フィラーであるPTFEは、ブラックタイトの膨張黒鉛に比べて柔らかい素材です。そのため、高い締付力がかかった際に、フィラーが配管の内径側へはみ出してしまう(座屈またはクリープ)可能性があります。内輪は、この内径側へのはみ出しを物理的に防ぐ「壁」として機能し、ガスケット本体の構造を保持し、長期的なシール性能を安定させるための生命線なのです。
このルールにより、ホワイトタイトの形状は、フランジの溝にはめ込む「内輪付(No.7592)」か、一般的な平面座フランジに使用する「内外輪付(No.7596)」のいずれかとなります。
2. 使用範囲の確認 — 「耐薬品性」に特化した性能
ホワイトタイトは、化学的な耐性において最高峰の性能を持ちますが、物理的な耐性が最も高いわけではありません。
- 温度: 最高使用温度は300℃です 。これを超える高温域では、ブラックタイト(No. 6590シリーズ)や、さらに高温対応のマイカフィラー製品(M590シリーズ)の領域となります。
- 圧力: 最高使用圧力は20MPaです 。クラス900や1500といった高圧ラインでは、ブラックタイト(No. 6590シリーズ)が適しています。
ホワイトタイトは、「ブラックタイトでは耐えられない腐食性流体」をシールするための切り札、という位置づけを正しく理解することが重要です。
3. フランジ形状に合わせた適正なガスケット形状の選定
うず巻形ガスケットは、フランジのシール面の形状(フランジ座)に合わせて、適切な形状を選定する必要があります。
- 平面座(RF)/ 全面座(FF)フランジ: 最も一般的な平坦なフラン지には、ガスケットの芯出しを容易にし、過剰な締め付けを防ぐ「内外輪付(No.7596)」が最適です 。
- はめ込み形(M&F)フランジ: フランジ自体にガスケットをはめ込む凹凸がある場合は、「内輪付(No.7592)」を推奨します 。
- 溝形(T&G)フランジ: フランジに溝が切られている場合は、内外輪のない「基本形(No.7590)」が適合しますが、内輪付きの採用も推奨されます 。
最終章:答えはここにある。「複雑な選定・加工はダイコーへ」
バルカー No. 7590シリーズ(ホワイトタイト)は、その究極の耐薬品性により、他のガスケットでは解決できない最も困難なシール課題に応える、まさに「化学の砦」です。しかし、その選定は、流体の詳細な成分、フランジの材質との電食の可能性、そして規格にない特殊な寸法など、極めて高度な専門知識を要します。
「この特殊な混合酸に対して、フープや内外輪はSUS316で良いのか、それともハステロイやチタンが必要か?」
「ガラスライニングされた反応槽のノズル用に、規格にない小口径のホワイトタイトを製作してほしい」
「緊急で酸素ラインのメンテナンスが必要になった。脱脂洗浄処理済みのガスケットを、今日中に手に入れることはできないか?」
このような、カタログのスペック表を眺めるだけでは決して答えの出ない、現場固有の課題。それに対して、50年以上の経験に裏打ちされた専門知識(ノウハウ)と、それを形にする加工技術(ソリューション)の両輪で応えることこそ、工業用製品の加工メーカーである株式会社ダイコーの真価です。
専門家による最適なソリューション提案
ダイコーでは、お客様の使用条件(流体、温度、圧力、フランジの規格・材質など)を専門の技術スタッフが詳細にヒアリング。ホワイトタイトが最適か、あるいは他のガスケットがより適しているかを的確に判断します。特に、電食リスクを考慮したフープ・内外輪の材質選定においては、豊富な知見からお客様の設備に最適な仕様をご提案します。
材質の選定に迷ったとき、特殊な加工が必要なとき、あるいはどこに頼めば良いか分からない課題に直面したとき。その答えは、常にここにあります。複雑な選定・加工はダイコーへ — どうぞ、お気軽にご相談ください。