メタルガスケット選定ガイド|高温・高圧・高真空を制する究極のシール材、そのすべてを徹底解説
「うず巻形ガスケットでも耐えられない、800℃を超える超高温域をシールしたい」「真空装置で、非金属ガスケットから発生するアウトガスを完全にゼロにしたい」「超高圧の反応器で、絶対に漏洩が許されない箇所がある」…。
産業界には、一般的なシール材の常識が一切通用しない、極限的な世界が存在します。超高温、超高圧、そして超高真空。このような究極の条件下で、システムの気密性を維持するという至上命題に応えるために存在する最後の砦、それが「メタルガスケット」です。
この記事では、金属のみで構成されるメタルガスケットがなぜ究極のシール性能を発揮できるのか、その多種多様な形状と原理、そしてその能力を100%引き出すための正しい材質選定と使い方まで、奥深いメタルガスの世界を徹底的に解説します。
第1部:メタルガスケットとは?— なぜ「金属」だけでシールできるのか
メタルガスケットは、その名の通り、金属材料のみで構成されたガスケットの総称です。ゴムや樹脂、黒鉛といった柔らかい非金属材料を一切含まないため、非金属材料が持つ「耐熱性の限界」や「アウトガスの発生」、「クリープ(へたり)」といった弱点を根本的に克服しています。
シールの原理:塑性変形による「金属と金属の圧着」
柔らかいガスケットが、その弾性を利用してフランジ面の凹凸を「埋める」ことでシールするのに対し、メタルガスケットは全く異なる原理でシールします。
それは、極めて高い締付力によって、ガスケット自体を意図的に塑性変形(潰すように永久変形)させ、フランジのシール面に強力に圧着・密着させるというものです。金属同士がミクロのレベルで完全に密着することで、分子レベルの漏れさえも許さない、極めて高いレベルのシール性能を実現します。このため、メタルガスケットの使用には、非常に高い締付力と、傷一つない高精度なフランジ面が不可欠となります。

第2部:【形状選定編】用途で使い分ける!多種多様なメタルガスケットの世界
メタルガスケットは、そのシール原理や使用されるフランジ形状に応じて、多種多様な断面形状が存在します。ここでは、ニチアスの資料に掲載されている代表的なメタルガスケットを紹介します。
1. プレーン形メタルガスケット(TOMBO™ No. 1850P)
構造と特徴:
金属板から打ち抜かれた、あるいは鍛造材から削り出された、断面が単純な四角形(平形)のガスケットです。シールのためには非常に高い締付力が必要ですが、構造がシンプルなため、フランジに特殊な溝加工ができない場合などに使用されます。
主な用途: 高温・高圧条件下の管フランジ、バルブ、圧力容器など。
2. のこ歯形メタルガスケット(TOMBO™ No. 1890)
構造と特徴:
プレーン形ガスケットのシール面に、同心円状の「のこ歯形」の溝を加工したタイプです。この「のこ歯」の先端に応力が集中するため、プレーン形と同じ締付力でも、より高いシール性能を発揮します。ただし、その反面、フランジ面に傷を付ける可能性があるため注意が必要です。
主な用途: プレーン形ではシール性が不足するが、リングジョイントのような溝加工ができない高温・高圧機器。
3. リングジョイントガスケット(TOMBO™ No. 1850C/V)
構造と特徴:
高温・高圧用途で最も代表的なメタルガスケットです。鍛造した金属を、断面が八角形(オクタゴナル)または楕円形(オーバル)に精密加工したものです。専用の溝が加工された「リングジョイントフランジ」にはめ込んで使用します。ガスケットを塑性変形させて溝に圧着させることで、極めて高いシール信頼性を発揮します。
主な用途: 石油精製や化学プラント、発電所などの高温・高圧配管、バルブ、圧力容器など。
4. メタルOシール®(TOMBO™ No. 9200シリーズ)
構造と特徴:
金属の細い管(チューブ)をOリング状に成形し、端部を溶接した、中空構造のメタルガスケットです。専用の溝にはめ込み、「締め切って(潰して)」使用します。
- 単純型(9200P): 真空から7.0MPa程度までの中圧用。
- 穴あき型(9200V): リングに開けられた小さな穴から内部に流体圧力が入り、その圧力で自らシール力を高める「自緊性」を持つタイプ。7.0MPa以上の高圧シールに適しています。
主な用途: 高圧から超高真空、極低温から高温まで、コンパクトな設計で高いシール性が求められる機器継手、圧縮機、各種エンジンなどに使用されます。
第3部:【材質選定編】性能を左右する、正しい金属材料の選び方
メタルガスケットの性能は、どの「金属」で作られているかによって決まります。選定の基準は**「使用温度」「耐食性」、そして「硬さ」**です。
【最重要】硬さのルール — ガスケットは、フランジより「少しだけ柔らかく」
メタルガスケット、特にリングジョイントガスケットの選定における絶対的なルールは、「ガスケットは、フランジの材質よりもブリネル硬さ(HB)で30~40度柔らかい材質を選ぶ」ことです。これは、高価で交換の難しいフランジ本体ではなく、安価で交換可能なガスケット側を優先的に塑性変形させるためです。
用途で選ぶ代表的な金属材質
| 材質 |
材質記号 |
最高使用温度[℃] |
最高硬さ[HB] |
主な特徴・用途 |
| 純鉄 |
D |
538 |
90 |
最も柔らかく、なじみやすい。低圧~中圧用。 |
| 極軟鋼 |
S |
538 |
120 |
最も汎用的に使用される炭素鋼。コストパフォーマンスに優れる。 |
| 5Cr-0.5Mo鋼 |
F |
649 |
130 |
中程度の耐熱性と耐食性を持つ合金鋼。 |
| 304鋼 |
E |
816 |
160 |
代表的なステンレス鋼。優れた耐食性。 |
| 316鋼 |
G |
816 |
160 |
304鋼より耐食性・高温強度が高い。化学プラントで多用。 |
| Alloy 400 |
M |
800 |
(130) |
ニッケル合金。耐海水性、多くの化学薬品に優れた耐性を持つ。 |
| チタン |
T |
800 |
(140) |
軽量で、海水や酸化性の酸に対して極めて優れた耐食性を示す。 |
| 銅 |
C |
400 |
80 |
非常に柔らかく、なじみやすいため、高い気密性が求められる箇所に使用。 |
| アルミニウム |
A |
300 |
40 |
柔らかく軽量。極低温用途などにも使用される。 |
第4部:性能を100%引き出すための正しい使い方
- フランジ座(溝)の表面仕上げ: 金属同士の接触でシールするため、フランジ面の平滑度が極めて重要です。推奨される表面粗さは1.6μmRa以下、メタルOシール®のガス・真空用途では0.8μmRa以下と、鏡面に限りなく近い仕上げが求められます。
- 高締付力と均一な締め付け: メタルガスケットを塑性変形させるためには、非常に高い締付力が必要です。そのため、ボルトにはSNB7などの高張力ボルトの使用が推奨されます。また、締め付けは必ずトルクレンチを使用し、対角線上に均一に行う「対角締め」を徹底する必要があります。
- ガスケットペーストの併用: 特にガス、真空、揮発性流体のシールでは、金属表面の微細な凹凸を埋めるため、ニチアス社の資料ではガスケットペーストの併用が推奨されています。
最終章:答えはここにある。「複雑な選定・加工はダイコーへ」
メタルガスケットの世界は、材料力学、金属工学、そして精密加工技術が融合した、極めて専門性の高い領域です。
「フランジの材質はわかるが、硬度(HB)が不明で、どのガスケットを選べば良いか判断できない」
「海外製の古い設備で、現在の規格にない寸法のリングジョイントが必要になった」
「図面通りに、特殊合金でのこ歯形ガスケットを1個だけ、緊急で製作してほしい」
このような、カタログの標準品コードを眺めるだけでは決して答えの出ない、現場固有の課題。それに対して、50年以上の経験に裏打ちされた専門知識(ノウハウ)と、それを形にする加工技術(ソリューション)の両輪で応えることこそ、工業用製品の加工メーカーである株式会社ダイコーの真価です。
専門家による最適なソリューション提案
ダイコーでは、お客様の設備情報や使用条件を専門の技術スタッフが詳細にヒアリング。フランジの材質と硬度から、電食のリスクまでを考慮し、純鉄、炭素鋼、各種ステンレス鋼、さらには特殊合金の中から、お客様の設備を確実にシールし、かつ保護するための最適なガスケット材質を的確にご提案します。
材質の選定に迷ったとき、特殊な加工が必要なとき、あるいはどこに頼めば良いか分からない課題に直面したとき。その答えは、常にここにあります。複雑な選定・加工はダイコーへ — どうぞ、お気軽にご相談ください。