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【徹底解説】ガスケットとパッキンの本質的な違いとは?材質・種類・用途・選定方法を紹介
ガスケットとパッキンの技術ガイド
本質的な違い、材質選定から正しい使い方まで
目次
I. シール技術の基本:ガスケットとパッキン
ガスケットの核心的役割
ガスケットは、配管のフランジや機器の接合部といった固定された二つの部材間に設置され、システム全体の「完全性(integrity)」を維持するためのシール部品です。その主な使命は、内部の流体を外部に漏洩させず、同時に外部からの異物混入を防ぐことにあります。ボルトによる強力な締付力で圧縮され、部材間の微細な隙間を埋めることで、高度な密閉状態を創出します。
ガスケットとパッキンの本質的な違い
両者はともにシール材ですが、その設計思想と使用環境が根本的に異なります。
- ガスケット (Gasket) → 静的シール (Static Seal)
動かない箇所の漏れを完全に防ぐことを目的とします。一度締め付けられた後は、その位置で性能を発揮し続けることが求められます。 - パッキン (Packing) → 動的シール (Dynamic Seal)
ポンプの回転軸やバルブの弁棒など、動きのある箇所に使用されます。漏れを完全に止めるのではなく、摺動面の潤滑や冷却を考慮しながら、漏れ量を適切に「制御」することが設計の要点となります。
II. 失敗しないガスケット選定の4大要素
ガスケットの選定ミスは、生産停止や環境汚染など深刻な事態を招きかねません。最適な選定のためには、以下の「4つの要素」を体系的に評価することが極めて重要です。
- 1. 流体 (Fluid):化学的適合性
扱う流体の種類(水、油、ガス、薬品など)に対し、ガスケット材質が化学的に侵されないかを確認します。腐食や膨潤(膨らむこと)は、シール機能の致命的な低下に直結します。 - 2. 温度 (Temperature):耐熱・耐寒性
常用温度だけでなく、運転開始時や停止時の最低・最高温度も考慮します。高温下では材質の軟化や劣化(クリープ現象)、低温下では硬化や脆化が問題となります。 - 3. 圧力 (Pressure):耐圧性能
システム内の常用圧力およびサージ圧(瞬間的な圧力上昇)に耐えうる材質と構造を選定します。多くの場合、温度と圧力の許容範囲は「P-T線図」として示され、選定時の重要な判断基準となります。 - 4. 用途 (Application):機械的条件
フランジの形状、締付力、振動の有無、熱サイクルの頻度といった機械的条件を評価します。例えば、締付力が弱い樹脂製フランジには、低締付力でシール可能な柔軟なガスケットが求められます。
III. ガスケット材質と種類の詳細ガイド
ガスケットは、その構成材料によって大きく4つのカテゴリに分けられます。それぞれに適した使用環境が存在します。
1. 非金属ガスケット
ゴムや樹脂、繊維といった非金属材料から作られ、柔軟性に富み、比較的低い締付力で良好なシール性を発揮します。主に低温・低圧の汎用的な用途で活躍します。
名称 | 特長と主要用途 |
---|---|
ジョイントシート | ゴム、補強繊維、充填材を圧延したシート。加工が容易で経済的。水、油、蒸気などのユーティリティラインに最適です。 |
ふっ素樹脂 (PTFE) | ほぼ全ての化学薬品に耐える優れた耐食性が特長。純度が高く、医薬品や半導体製造プロセスにも使用されます。 |
膨張黒鉛 | 高い耐熱性と耐薬品性を持ち、柔軟でフランジ面への追従性に優れます。高温の蒸気や熱媒体油ラインに適しています。 |
ゴムシート | 優れた弾力性を持ち、水や空気のシールに多用されます。材質(NBR, EPDM等)により耐油性や耐候性が異なります。 |
2. セミメタリックガスケット
金属の機械的強度・耐熱性と、非金属の柔軟なシール性を融合させた複合材料ガスケットです。高温・高圧のプラント設備で最も信頼され、標準的に使用されています。
代表例:うず巻形ガスケット
V字断面の金属薄帯(フープ)と膨張黒鉛などの緩衝材(フィラー)を交互に渦巻状に巻き上げた構造です。ばねのような優れた復元性を持ち、温度や圧力の変動に強く追従します。
- フープ(金属薄帯): ガスケットの骨格。機械的強度と復元性を担います。
- フィラー(シール材): フランジ面の微細な凹凸を埋め、シール性を確保します。
- 外輪・内輪: 過剰な圧縮を防ぎ、ガスケットを保護・センタリングする重要な補助部材です。
3. メタルガスケット
金属材料のみで構成され、極めて過酷な条件下(超高温・超高圧・超高真空)での使用を目的とします。シールするには非常に高い締付力が必要です。
名称 | 特長と主要用途 |
---|---|
金属平形・のこ歯形 | 金属板を平たく、あるいは断面をのこ歯状に加工したもの。熱交換器や圧力容器のカバーフランジに使用されます。 |
リングジョイント | 断面が楕円形や八角形の金属リング。専用の溝を持つフランジに使用され、高温・高圧のガスや石油精製プロセスで高い信頼性を誇ります。 |
4. 液状ガスケット
ペースト状のシール剤で、接合面に直接塗布し、その場でガスケットを形成(Form-In-Place Gasket, FIPG)するものです。硬化することで弾性のあるシール層となり、複雑な形状やプレス加工された部品の接合面に最適です。固形ガスケットの在庫を削減できるメリットもあります。
主な種類と特徴
- シリコーン系 (RTVゴム): 空気中の湿気と反応して硬化するタイプが主流です。耐熱性、耐エンジンオイル性、耐クーラント性に優れ、柔軟性が高いため、オイルパンやカバー類に広く使用されます。
- 嫌気性: 金属イオンに触れ、空気が遮断されることで硬化します。剛性の高いフランジに適しており、耐薬品性や耐圧性に優れます。ミッションケースの接合などが代表的な用途です。
使用上の注意点
塗布量が多すぎると、はみ出したガスケットが内部に脱落し、オイルラインの詰まりなど重大なトラブルを引き起こす可能性があります。また、硬化には一定の時間が必要であり、メーカーの指示に従うことが重要です。
IV. ガスケットの具体的な使用事例
プラント・工場設備
化学プラントや発電所では、無数の配管がフランジで接続されています。これらの接続部すべてにガスケットが使用され、危険な化学物質や高温の蒸気が漏れるのを防ぎ、プラントの安全操業を支えています。
社会インフラ(水道・ガス)
私たちの生活に不可欠な水道管やガス管の接続部にも、ガスケットは広く使用されています。地中に埋設される配管など、容易にメンテナンスができない場所でも、長期間にわたり漏水を防ぎ、安定した供給を支える高い信頼性が求められます。
食品・医薬品工場
製品の純粋性が厳しく問われる分野では、サニタリー(衛生的)ガスケットが活躍します。これらは流体に材質が溶け出さず、細菌の繁殖を許さない特殊な構造と材質(PTFEや特殊ゴムなど)で作られており、製品の品質と安全性を守る上で不可欠な部品です。
V.【実践】ガスケットの正しい施工と注意点
最高品質のガスケットも、施工方法が不適切では性能を発揮できません。以下の手順は、確実なシールを実現するための基本です。
- フランジ面の確認と清掃: 古いガスケットの残骸や錆、ゴミを完全に除去し、フランジ面に傷や歪みがないかを確認します。この初期段階が最も重要です。
- ガスケットの正確な配置: ガスケットがボルト穴に干渉せず、フランジの中心に正確に収まるように配置します。
- ボルトの対角締め(スターパターン): ボルトを星を描くように対角線上の順で、複数回に分けて均等に締め付けます。これは、フランジに均一な締付圧力をかけるための必須技術です。
- トルク管理の徹底: トルクレンチを使用し、指定されたトルク値で締め付けます。ボルトに潤滑剤を塗布することで、より正確な軸力管理が可能になります。
絶対厳守:ガスケットの再利用は厳禁
一度圧縮されたガスケットは塑性変形し、シール性能を失っています。分解・メンテナンスの際は、必ず新しいガスケットに交換してください。再利用は漏洩事故の直接的な原因です。
VI. 【専門編】動的シール:グランドパッキン
ポンプ軸などの運動部には、ガスケットではなくグランドパッキンが使用されます。その取り扱いには特有のノウハウが必要です。
重要概念:適正な漏洩管理
回転機器用のパッキンは、漏れを完全に遮断するものではありません。1分間に数滴程度の制御された漏れ(潤滑漏れ)を意図的に発生させ、その液体で摺動面を潤滑・冷却します。漏れゼロを目指した過剰な締め付けは、パッキンの焼損や軸の摩耗を引き起こすため、絶対に避けなければなりません。
施工と慣らし運転の要点
- リングの精密な製作: パッキンロープを軸径に合わせ、端部が隙間なく合わさるよう45°の角度で正確に切断し、リングを製作します。
- 継ぎ目の分散配置: リングを1本ずつ挿入し、漏洩経路が一直線にならないよう、継ぎ目の位置を90度ずつずらして配置します。
- 慣らし運転の実施: 初期締め付けはナットが軽く接触する程度に留めます。ポンプ起動後、漏れ量を確認しながら、15~30分かけてナットを少しずつ増し締めし、規定の漏れ量に安定させる慎重な調整作業が不可欠です。
VII. 総括:最適なシール選定のために
ガスケットとパッキンは、プラントや機械設備の安全と安定稼働を根底で支える、極めて重要な機能部品です。その選定においては、「流体・温度・圧力・用途」という4つの基本要素を常に念頭に置く必要があります。
本ガイドで解説した材質の特性、正しい選定プロセス、そして適切な施工方法を実践することが、漏洩トラブルを防ぎ、設備の長寿命化を実現する鍵となります。適切なシール技術の適用を通じて、安全で高効率な運用を目指してください。
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