バルカー製 ふっ素樹脂ジャケットガスケット選定ガイド|4タイプの中芯材を徹底比較 株式会社ダイコー
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バルカー製ふっ素樹脂ジャケットガスケット選定ガイド|4タイプの中芯材を徹底比較
「腐食性の高い薬液を扱うラインで、フランジからの漏洩は絶対に許されない」「ガラスライニングや樹脂ライニングが施されたフランジで、高い締付力をかけられない」…こうした、高度な耐薬品性と、デリケートなフランジ面への追従性が同時に求められる、最も要求の厳しいシール課題。この難題に対する一つの完成形が、株式会社バルカーの「ふっ素樹脂ジャケットガスケット」シリーズです。
この記事では、この高性能複合ガスケットがなぜ多くの化学プラントで信頼されているのか、その基本構造から、性能を決定づける4つの主要な中芯材(N, S, H, Fタイプ)の違い、そして安全に使用するために絶対に守るべき注意事項まで、専門的な視点から徹底的に解説します。
第1部:ジャケットガスケットとは?― 「PTFE外被」と「中芯材」のハイブリッド構造
ふっ素樹脂ジャケットガスケットは、その名の通り、異なる素材を組み合わせた複合(ハイブリッド)構造に最大の特徴があります。
- 外被(ジャケット): 流体に直接触れる部分は、耐薬品性に優れた、ふっ素樹脂(PTFE)で覆われています。これにより、ほとんど全ての化学薬品に対して侵されることのない、究極の耐食性を実現します。
- 中芯材(インサート): PTFEジャケットの内部には、ジョイントシートや膨張黒鉛シートといった、弾力性と復元性に優れたクッション材が封入されています。
この構造により、「耐薬品性はPTFE外被で確保し、シール性能は中芯材の弾力性で維持する」という、二つの素材の長所を組み合わせた、非常に合理的な性能が実現されています。カタログが示す通り、圧縮量が大きく、低い面圧でもシールが可能なため、ライニングが施されたフランジなどに最適なのです。

第2部:【核心】性能を決定づける4つの中芯材 ― N, S, H, Fタイプ徹底比較
ジャケットガスケットの選定において最も重要なことは、使用条件(温度、圧力)に合わせて最適な中芯材を選ぶことです。ここでは、カタログに記載されている4つのタイプを、その特性と用途から詳しく見ていきましょう。
1. Nタイプ:一般用スタンダードモデル
- 中芯材: ジョイントシート
- 解説: 中芯に汎用的なジョイントシートを用いた、最も標準的なタイプです。ジャケットガスケットの基本的な性能である「優れた耐薬品性」と「低面圧シール性」を、最も経済的に実現します。
- 主な用途: 一般的な化学薬品ライン、ふっ素樹脂ライニング配管など。
- 使用範囲の目安: 温度:-100℃~150℃ / 圧力:~2.0MPa
- 選定のポイント: 過酷な熱や圧力がかからない、多くの化学ラインでファーストチョイスとなるバランスの取れたモデルです。
2. Sタイプ:高温・高圧対応モデル
- 中芯材: ジョイントシート + フェルトシート
- 解説: Nタイプのジョイントシートの両面に、さらにクッション性に優れたフェルトシートを追加した構成です。カタログには「PTFEジャケットのフロー(圧力による変形・流れ)を抑制した、高温・高圧用です」と記載されています。フェルト層が追加されることで、より高い圧力や温度がかかった際のPTFE外被の変形を防ぎ、シール性を安定させます。
- 主な用途: Nタイプでは対応できない、やや高めの温度・圧力がかかる化学ライン。
- 使用範囲の目安: 温度:-100℃~200℃ / 圧力:~2.0MPa
- 選定のポイント: Nタイプからのステップアップ版。使用温度が150℃を超える場合に、まず検討すべき選択肢です。
3. Hタイプ:シリーズ最強の高温・高圧モデル
- 中芯材: ステンレス鋼薄板入り膨張黒鉛シート + フェルトシート
- 解説: 中芯材に、うず巻形ガスケットにも使用される高性能シール材「膨張黒鉛シート(グラファイトシート)」を採用。さらにステンレス鋼の薄板で補強し、両面をフェルトで挟んだ、シリーズの中で最も堅牢な構造です。カタログにも「より高温・高圧での使用が可能です」と明記されており、その性能は他のタイプとは一線を画します。
- 主な用途: ジャケットガスケットで対応可能な範囲で、最も厳しい温度・圧力がかかる重要ライン。
- 使用範囲の目安: 温度:-100℃~260℃ / 圧力:~3.0MPa
- 選定のポイント: シリーズ最高の耐熱・耐圧性を誇るフラッグシップモデル。他のタイプではスペック不足となる過酷な条件での最終選択肢です。
4. Fタイプ:高耐食・クリーンモデル
- 中芯材: 高機能シートガスケット No.GF300
- 解説: 中芯材に、PTFEをバインダーとした次世代の高性能シート「GF300」を採用し、PTFE外被と熱圧着させた特殊なタイプです。中芯材自体が極めて高い耐食性を持つため、万が一、外被から薬品が浸透した場合でも、ガスケット全体の機能喪失リスクを大幅に低減します。また、食品衛生法にも適合しており、クリーン性が求められるラインにも最適です。
- 主な用途: 高い耐食性とクリーン性が同時に求められるライン(医薬品、食品など)。浸透性の高い流体への対策。
- 使用範囲の目安: 温度:-100℃~200℃ / 圧力:~2.0MPa
- 選定のポイント: シール対象の流体が特に浸透しやすい、あるいはコンタミネーションを極端に嫌う、といった特殊な要求がある場合に選ばれる、高付加価値モデルです。
第3部:【最重要】ジャケットガスケットを安全に使うための共通注意事項
ジャケットガスケットは非常に優れた製品ですが、その特殊な複合構造ゆえに、施工や管理を誤ると重大なトラブルにつながる可能性があります。カタログに記載されている以下の注意事項は、現場で必ず遵守すべき絶対的なルールです。
設計・選定時に注意すべき事項
- 浸透しやすい流体への対策: カタログは「塩酸、硝酸、ハロゲン、溶融硫黄」などの浸透しやすい流体に対して、長期間の使用でPTFE外被を貫通し、中芯が侵されるリスクを警告しています。対策として、①外被を厚くする、②液だまり防止タイプ(N7035)やFタイプを使用する、③それでも問題が起きる場合はPTFEソリッドガスケット(GF300, 7020など)へ代替する、という段階的な検討が必要です。
- 真空ラインでの使用: 真空で使用すると、PTFE外被が内側に引き込まれる(インプロージョン)可能性があります。対策として、外周を融着・縫合した製品や、ボルト穴付きの製品を選定することが推奨されます。
- ライニングフランジの寸法: 樹脂やガラスのライニングフランジは、JIS規格品でもガスケット座の寸法が鋼管用とは異なります。必ずフランジの実測寸法に合ったガスケットを特注で設計する必要があります。
保管・装着時に注意すべき事項
- 中芯材の防水: SタイプやHタイプに使用されているフェルトシートは、水に濡れると圧縮強度が低下します。濡れた状態で締め付けると圧縮破壊の原因となるため、必ず防水性の袋などに入れて保管し、雨天時の施工などでは特に注意が必要です。
- 圧縮破壊の防止: PTFE外被は滑りやすいため、過大な力での締め付けや「片締め」は、中芯材が押し出される「圧縮破壊」を招きます。特に小口径ほどその傾向が強く、カタログではガスケット面圧を50.0MPa以下で管理するよう注意喚起しています。
- 外被の「めくれ」防止: フランジ間の隙間が狭い状態で無理に挿入すると、外被がフランジの角に当たって「めくれ」上がることがあります。これに気づかず締め付けると、100%漏洩します。対策として、外周を融着・縫合した製品が有効です。
- 100℃以上での使用(N, Sタイプ): 中芯にジョイントシートを含むNタイプ、Sタイプは、100℃以上で使用すると中芯が硬化します。増し締めを行う場合は、硬化が進行していない「加熱運転開始後24時間以内」に実施する必要があります。
第4部:特殊形状・複雑な選定はダイコーにご相談ください
これまで見てきたように、バルカーのふっ素樹脂ジャケットガスケットは、中芯材と外被形状の組み合わせによって、極めて多岐にわたる選択肢が存在します。
「うちのラインは180℃の腐食性ガスだが、Sタイプで十分か?それともHタイプを選ぶべきか?」
「浸透性の高いハロゲンガスに対して、最も安全な仕様はどれか?」
「大口径のガラスライニング反応槽用に、外周融着したN7035タイプを、フランジの実測寸法に合わせて製作してほしい」
このような、カタログの標準情報だけでは判断が難しい専門的な選定や、オーダーメイドの加工が必要となる場面では、ぜひ私たちガスケットのプロフェッショナル、ダイコーにご相談ください。
なぜ、複雑な選定・加工はダイコーに任せるべきなのか?
- 専門的な製品選定サポート: 私たちは、ジャケットガスケットの各タイプの長所と短所、そして適用限界を深く理解しています。お客様の使用条件を詳細にヒアリングし、数ある組み合わせの中から、最も安全でコストパフォーマンスに優れた仕様をご提案します。
- 高精度なオーダーメイド加工: 自社工場に最新のカッティングプロッターやウォータージェット加工機を完備。お客様からいただいた図面(CADデータ)を基に、あらゆる複雑な形状のガスケットを、1枚からでも迅速かつ高精度に製作いたします。特に、ライニングフランジ用の寸法調整や、特殊な機器に合わせた異形品の製作を得意としています。
- 信頼できる技術パートナーとして: ガスケットの選定ミスは、プラントの安全を根底から揺るがす重大なリスクです。私たちは単なる販売店ではなく、お客様の課題を共に解決する技術パートナーとして、専門的な知見で皆様のプラント運営をサポートします。
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