性能の核心：化学的に不活性なセラミック充填材「アルミナ」の採用

MF300も、他の高機能シートと同様に、バインダーとして「PTFE（ふっ素樹脂）」を採用しています。これにより、従来のゴム系ジョイントシートが抱えていた「100℃以上での熱による硬化・劣化」という根本的な弱点を克服しています。

GF300やSF300との決定的な違いは、主充填材にあります。カタログに記載されているMF300の主成分は以下の通りです。

• PTFE（ふっ素樹脂）: バインダーとして機能。優れた耐熱性・耐薬品性を持ち、熱による硬化劣化がありません。
• アルミナ: 主な充填材。アルミナ（酸化アルミニウム）は、ファインセラミックスの原料としても知られる、化学的に非常に安定し、硬質な物質です。

標準タイプのGF300に配合される黒鉛は酸化性酸に弱く、白色タイプのSF300に配合されるシリカは強アルカリに侵される可能性があります。これに対し、MF300は酸にもアルカリにも侵されにくいアルミナを充填材として採用することで、より広範な化学薬品に対して、長期的に安定したシール性能を発揮することができるのです。

MF300が実現する4つの卓越した性能

1. 優れた耐薬品性（酸・アルカリ両用）
   カタログには「GF300やSF300に比べ、耐薬品性を高めたガスケットで、酸とアルカリ両方に適用可能です」と明確に記載されており、これがMF300の最大の特長です。これにより、従来はガスケットの使い分けが必要だった酸ラインとアルカリラインが混在するプラントや、洗浄工程で酸とアルカリを交互に使用するようなラインにおいて、ガスケットの統合・標準化を推進できます。
2. 究極のクリーン性
   充填材であるアルミナは白色であり、黒鉛などの黒色成分を一切含みません。カタログにも「白色無地のため、汚染を嫌うラインに最適です」と記載されており、製品への微量な異物混入も許されない、医薬品、食品、半導体製造プロセスなどの極めてクリーンな環境で、その真価を発揮します。
3. 優れた高温安定性（クリープ特性）
   PTFEバインダー技術により、従来のゴム系ジョイントシートを圧倒する優れたクリープ（応力緩和）特性を持っています。カタログの応力緩和率データ（200℃、22時間後）を比較すると、No.6502（ゴム系耐熱強化品、1.5t）の41.1%に対し、MF300（3.0t）は55.0%と厚みを考慮しても良好な値を示し、高温下でも緩みにくく、長期にわたり安定したシールを維持できます。
4. 熱による硬化劣化がなく「増し締め可能」
   GF300、SF300と同様、ゴムを含まないため、100℃以上の高温に長時間さらされても硬く脆くなることがありません。これにより、運転後の増し締め（リボルティング）が可能となり、メンテナンスの自由度とプラントの安全性が大幅に向上します。

設計時に注意すべき事項

• ガスケット座の表面仕上げ: 最高のシール性能を得るため、フランジのガスケット座の推奨表面粗さは以下の通りです。
  • 液体シールの用途: 6.3Ra
  • ガスシールの用途: 3.2Ra
  注意点として、過剰に平滑な仕上げ（鏡面など）にすると、締め付け時にガスケットが滑り、圧縮破壊の原因になる可能性があるため、適切な粗さを保つことが重要です。

使用上注意すべき事項

• ガス系流体で使用する場合: ガスは液体よりも漏れやすいため、より確実なシールを期すために以下の対策が推奨されています。
  • ガスケットペーストの塗布: ガスケット表面および内径端面に、薄く均一に塗布することが望ましいとされています。
  • 高い締付面圧の確保: 35MPa程度の締付面圧を目標とします。
  • リングガスケットの使用: 高い締付面圧を効率的に確保するため、全面形ではなくリングガスケットの使用が推奨されます。
  • 薄いガスケットの選定: 厚さ1.5mm以下の薄いガスケットを使用することで、浸透漏れのリスクを低減できます。
• ガスケットペーストの選定: カタログでは、高機能シートガスケットにペーストを使用する際は「ニューバルフロンペースト」を推奨しています。他社製品や特定のペースト（No.6, No.6Mなど）は、馴染みが悪いため推奨されていません。特にクリーンなラインでは、ペースト成分が流体に影響を与えないか、別途確認が必要です。
• 使用不適な流体: MF300は優れた耐薬品性を持ちますが、万能ではありません。カタログには「重合性モノマー、毒性ガスなど」には不適であると記載されています。これらの特殊な流体への適用は避けるべきです。
• 増し締めについて: MF300は増し締めが可能ですが、プラントの安全手順として、高温状態での作業（ホットボルティング）は高いリスクを伴います。最も安全で確実な方法は、必ず常温まで冷却してから増し締めを実施することです。

なぜ、複雑な選定・加工はダイコーに任せるべきなのか？

• 専門的な製品選定サポート: 私たちは、バルカーの高機能シートガスケットシリーズそれぞれの長所と短所、そして適用限界を深く理解しています。お客様の使用条件（流体、濃度、温度、圧力、清浄度要件）を詳細にヒアリングし、MF300が最適か、あるいは他の製品がより適しているかなど、安全性とコストを両立させた最適なシールソリューションをご提案します。
• 高精度なオーダーメイド加工: 自社工場に最新のカッティングプロッターやウォータージェット加工機を完備。お客様からいただいた図面（CADデータ）を基に、あらゆる複雑な形状のガスケットを、1枚からでも迅速かつ高精度に製作いたします。
• 信頼できる技術パートナーとして: ガスケットの選定ミスは、製品の品質汚染や設備の腐食といった重大な問題に直結します。私たちは単なる販売店ではなく、お客様の課題を共に解決する技術パートナーとして、専門的な知見で皆様のプラント運営をサポートします。