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TOMBO No.9007-SCガスケット選定ガイド ニチアス株式会社製|強アルカリ流体に特化した【専用モデル】株式会社ダイコー
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TOMBO No.9007-SCガスケット選定ガイド ニチアス株式会社製|強アルカリ流体に特化した【専用モデル】
「苛性ソーダや水酸化カリウムなど、高濃度のアルカリ流体を扱うラインで、長期的に安定したシール性能を維持したい」「一般的なPTFEガスケットでは、特殊な条件下での信頼性に不安がある」…こうした、プラントの中でも特に腐食性が高く、材料選定が難しい「強アルカリ」環境でのシール課題。この極めて特殊な要求に応えるために開発されたのが、ニチアス株式会社の「TOMBO™ No.9007-SC」(ナフロンPTFE 特殊カーボン入り打抜きガスケット)です。
この記事では、No.9007-SCがなぜ「強アルカリ流体用」として特化されているのか、その構造的な秘密から、性能を裏付ける具体的なデータ、そして絶対に守るべき使用上のルールまで、専門的な視点から徹底的に解説します。
第1部:No.9007-SCとは?― 「PTFE + カーボン」が実現する究極の耐アルカリ性能
No.9007-SCは、カタログにおいて、特定の化学的環境下での使用を想定した、特殊な充填材入りふっ素樹脂ガスケットとして紹介されています。その性能の核心は、ベースとなるPTFEに、耐アルカリ性に優れた特殊な充填材を配合した、独自の材料構成にあります。
性能の核心:化学的に安定な「カーボン(炭素)」の充填
No.9007-SCの卓越した耐アルカリ性能は、その主成分に由来します。カタログに記載されている主成分は以下の通りです。
- PTFE(ふっ素樹脂): ベース材として機能。ほとんどの化学薬品に対して侵されない、究極の耐薬品性を持ちます。
- カーボン(炭素): 主な充填材。カーボンは化学的に非常に安定しており、特に強アルカリに対して優れた耐性を示します。
一般的なPTFEガスケットに充填されるシリカやガラスファイバーは、強アルカリによって侵される(溶解する)可能性があります。No.9007-SCは、強アルカリに侵されないカーボンを充填材として採用することで、PTFEの弱点であるクリープ特性を改善しつつ、ガスケット全体の耐アルカリ性能を極限まで高めているのです。使用範囲も-200℃~200℃までと一般的なPTFEガスケットと比べると大幅に改善されています。
No.9007-SCが実現する3つの重要な特性
- 卓越した耐強アルカリ性能
カタログには「主に強アルカリ流体に使用可能」と明確に記載されており、これがNo.9007-SCの最大の存在価値です。他の充填材入りPTFEガスケットでは長期的な信頼性を確保するのが難しい、高濃度の苛性ソーダ(水酸化ナトリウム)ラインなどで、安心して使用できる高い信頼性を持っています。
- 明確な使用限界:酸化性流体には絶対に使用不可
一方で、No.9007-SCには極めて重要な使用上の制約があります。カタログには「硝酸、濃硫酸、クロム酸などの酸化性流体には使用不可」と強く警告されています。これは、充填材であるカーボンが、強力な酸化力を持つ流体によって酸化・消耗させられてしまうためです。このルールを無視した使用は、ガスケットの急速な劣化と重大な漏洩事故に直結します。
- 充填材入りPTFEとしての安定した機械的特性
カーボンを充填することで、純粋なPTFE(No.9007など)に比べてクリープ(応力緩和)が抑制され、寸法安定性が向上します。カタログの応力緩和率データ(100℃で56%、200℃で79%)は、PTFE系としては標準的な値を示しており、熱がかかる条件下でも、純粋PTFEよりは安定したシール性能を維持します。

第2部:No.9007-SCの性能を最大限に引き出すための正しい使い方
No.9007-SCは、特定の用途において絶大な効果を発揮する特殊なガスケットです。その性能を100%引き出し、安全を確保するためには、「何に使うか」そして「何に使ってはいけないか」を正確に理解することが不可欠です。
設計・選定時に注意すべき事項
- ガスケット座の表面仕上げ: 最高のシール性能を得るため、フランジのガスケット座の推奨表面粗さは、他のPTFEガスケットと同様に以下の通りです。
- 液体シールの用途: 6.3μm Ra以下
- ガスシールの用途: 3.2μm Ra以下
- 【最重要】流体の正確な確認:アルカリか?酸化性酸か?
選定段階で最も重要なことは、対象流体の性質を正確に把握することです。No.9007-SCは「強アルカリ専用」と割り切り、少しでも酸化性を持つ流体(硝酸、濃硫酸、次亜塩素酸など)が混入する可能性があるラインには、絶対に使用してはなりません。逆に、No.9007-LC(シリカ充填)は強酸には強いですが、強アルカリには適しません。この明確な使い分けが、安全の鍵を握ります。
使用上注意すべき事項
- ガス系流体で使用する場合: ガスは液体よりも漏れやすいため、より確実なシールを期すために、カタログではペーストの併用を推奨しています。特に、溶着によって大口径化されたガスケットをガスラインに使用する場合や、厳密な気密試験を行う際には、TOMBO No.9400(ナフロンペースト)などをガスケット両面に薄く均一に塗布することが、シール性を高める上で非常に有効です。
- 締付管理の徹底: カタログに記載されている締付面圧の範囲(最小:14.7~29.4 N/mm²、許容:58.8 N/mm²)を遵守することが基本です。カーボン充填PTFEは、純粋PTFEよりは硬質ですが、過剰な締め付けはガスケットの圧縮破壊を招きます。必ずトルクレンチを使用し、均一な力で締め付けてください。
- 禁忌流体の厳守: 酸化性流体に加え、PTFEベースのガスケットに共通の禁忌流体である「溶融アルカリ金属、高温のふっ素、三ふっ化塩素」にも絶対に使用できません。
第3部:特殊形状・複雑な選定はダイコーにご相談ください
ニチアス No.9007-SCは、「強アルカリ」というニッチながらも極めて重要なシール課題に対する、明確な答えを持つ製品です。しかし、その特殊性ゆえに、選定にはより深い化学的な知見と経験が求められます。
「使用するアルカリの濃度と温度を考えると、本当にNo.9007-SCが最適だろうか?」
「プロセス中に微量の酸化剤が混入する可能性があるが、許容範囲はどの程度か?」
「強アルカリと有機溶剤の混合流体に対して、最適なガスケットは何か?」
「特殊な形状の熱交換器用に、No.9007-SCのシートから精密なガスケットを製作したい」
このような、カタログの標準情報だけでは判断が不可能な専門的なケースや、シート材からの精密な加工が必要となる場面では、ぜひ私たちガスケットのプロフェッショナル、ダイコーにご相談ください。
なぜ、複雑な選定・加工はダイコーに任せるべきなのか?
- 専門的な製品選定サポート: 私たちは、ニチアス社の耐薬品性ガスケット(No.9007-SC, No.9007-LC, No.1133など)それぞれの長所と短所、そして明確な適用限界を深く理解しています。お客様の流体組成、濃度、温度、圧力といった詳細な条件をヒアリングし、最も安全で長期的に信頼できるシールソリューションをご提案します。
- 高精度なオーダーメイド加工: 自社工場に最新のカッティングプロッターやウォータージェット加工機を完備。お客様からいただいた図面(CADデータ)を基に、あらゆる複雑な形状のガスケットを、1枚からでも迅速かつ高精度に製作いたします。
- 信頼できる技術パートナーとして: 腐食性の高い流体を扱うラインにおいて、ガスケットの選定ミスはプラントの安全を根底から揺るがす重大なリスクです。私たちは単なる販売店ではなく、お客様の課題を共に解決する技術パートナーとして、専門的な知見で皆様のプラント運営をサポートします。
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ガスケット・パッキン・工業用製品の総合カタログ
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